神山はいま

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信頼し、尊敬し合う、神山育ちの先輩と後輩
「できる限りサポートしたいし、頑張ってほしい」

令和3年 1月30日

以前、『神山はいま』の連載にもご登場いただいた「めし処萬や 山びこ」の谷真宏さんから、今回の取材対象としておすすめしていただいたのは、2020年春にオープンした美容院「Garden of the forest 森の小さな美容院」の阿部晃幸さん。共に神山町で生まれ育ち、高校で町外へ。後に神山へ戻って来ることになったきっかけや理由とは? 今回は、東野間にある阿部さんの美容院にて、おふたりにお話を伺いました。まずは、谷さんから。

:神山町大埜地で生まれ育ち、町外の高校に進学しました。大学卒業後に鳴門市の飲食店で10年間ぐらい修行をして、Uターンというかたちで神山に帰ってきました。2019年3月に、寄井商店街で「めし処萬や 山びこ」をオープンして、いま2年目になります。

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※谷さんが営む「めし処 萬や 山びこ」の様子(写真提供:谷真宏さん)

阿部:生まれは、神山町東野間です。美馬市の高校へ進学したので、まちを離れて下宿をしていました。高校卒業後は、陸上で愛知県にある実業団に入って、長距離マラソンの選手として3年間活動していました。陸上を引退した後、21歳で美容師になり、12年目のときに独立。2020年の春に、約18年ぶりに神山に帰ってきて、「Garden of the forest 森の小さな美容院」をオープンしました。

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—今回、谷さんから、阿部さんへの取材を提案してもらいましたよね。

:僕は、名古屋から神山に帰ってきて、美容院をはじめたテル(阿部さんのニックネーム)の存在が、目新しいというか物珍しいのではって思ったんです。ほれと、なんていうんですかね、テルが頑張っている姿を見て、もっと彼のことをみんなに知ってもらいたいって思ったんです。

—ふたりとも一度まちを出ていますが、子ども時代を振り返って、いまでも印象に残っていることは?

:僕らが中学生の頃、約20年ぐらい前は、超田舎って感じでした。いまの神山のイメージとは全然違っていて。いちばん印象に残っているのは、グリーンバレーの大南さんが主催していたコットンフィールドでのイベント※1に参加したことです。 ALTの先生たちがめっちゃ集まってて、外国人の多さに、かなり衝撃を受けましたね。

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阿部:豊かな自然と戯れて育つ場所って感じでした。自然のなかで遊びながら、いろんなことを学んで覚えるところでしたね。その経験が活かされてか、何でも自分の手でできるやんって。

いま美容院の建つ場所でもあるんですが、ここは元々叔父の家なんです。僕の叔父さんは、昔から自分ひとりで家から茶室から、全部つくっていて。子どもの頃から、毎日何かができたっていう光景をずっと見て育ったので、帰ってくるきっかけとしてこの場所があるっていうのは、大きかったですね。

幼稚園の頃から、桜花連※2にも入ってたんで、いろんな大人の方に踊りを教えてもらって可愛がってもらいました。

中学のときは徳島駅伝の関係で教育委員会の人には、本当にお世話になりましたね。いまでは考えられないぐらいわがまま言ってましたから(笑)

まちで見ると、初期のKAIRが印象的でしたね。「黒蕨先生が来た!」みたいな。

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: でも、結局バスで市内まで1時間かけて行かな、ほしいものは何も買えんし、食べれんっていうのが、すごいストレスでした。ほんまに何もなくて、僕らが中学生の頃は、みんながまちを出る一択だったもんな。

阿部:「こんなムラ、いやだ」ってね(笑)

—なんで神山に帰ってくることに?

:移住者が増えたり、KAIRの活動のことをよく耳にしたり、まちがすごい盛り上がっているのが見えて。便乗するというか、このムーブメントを、もっと加速させられるんじゃないかって思って。僕も、たまたま食の仕事に就いて、それをそのまま、まちに持ち込んでやってみたらいいんじゃないかと。

僕もテルもやけど、神山で生まれ育ったんですよね。もっと地元のやつも頑張ろうよ、みたいなメッセージを発信したいっていうんが大きかったですね。

阿部:僕の場合は、彼女にフラれて、自由になりすぎて、考える時間ができたんですよ(笑) 本当に自分のやりたいことは何だろうなって思いはじめて…。

気持ちを整理しようと思って、神山に帰省したんです。そしたら、「ああ、美容院をやるなら、ここだな」と決めて、その日のうちに親に「来年帰ってくるわ」って話していました。それが、2019年のお正月です。

美容師をやっていて実感していることでもありますが、美容で最終的に必要なものって、きれいな水と空気なんです。都会にいて、いくら高級な化粧水を使ったとしても、毎日飲んだり肌にふれる水や空気が良い場所で暮らしている人の潤いには追いつかないんじゃないかって思っています。

僕は、叔父さんの家がここにあったから、神山に帰ってきたけど、帰ってきたいと思ったもうひとつの理由のひとつに、桜花連のこともありますね。小さいときから踊りをずっと教えてもらって、お世話をしてもらうばっかりだったんで、大人になった自分が今度は、桜花連を続けていけるように手伝いたいなって。

—お店、最近はどんな様子ですか?

:いまコロナ禍じゃないですか。どこも大変だと思いますけど、そもそものコンセプトが地域密着というか地元の人のための店にしたかった。ほなけん、地元の常連さんや毎日のように来てくれる人らのおかげでほんまに成り立っています。まさか、こんなになるとは誰も思ってなかったし、どうサバイブしていくか、というのが課題ですかね。テルはどう?

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阿部: ぼちぼちやっています。お店が山の上にあるので、はじめは、訪問と送迎を考えていたのですが、神山のおばあちゃんは、めっちゃ元気。軽トラに乗って、ここまで上がって来てくれます。午前中は、70代や80代の方の来店が多いですね。迎えに行くことはたまにありますが、訪問に行くのは、今のところあんまりないですね。「車を運転できんようになったら来てね」って言われています(笑)。

—ふたりは、いつから親しくなったんですか? 

阿部:コロナもあったんで、帰ってきていたことも、まわりの人に話してなかった。ひとりで黙々とオープンの準備をやっていて。1ヶ月半ぐらい経った頃に友達とふたりで「山びこ」に行ったんですよ。2回目に行ったときにカウンターに座ったら、真宏さんが話しかけてくれたんです。「美容院やるんやろ?」みたいな感じで。

:そうそう、そこからやな。仲良くなったんは、ここ半年ぐらいかな。僕は、テルの姉ちゃんと同級やけど、テルとは年が3つ離れとるし、小学校のときの小さかったイメージしかなかったなぁ。

阿部:でも、最近、一緒に遊びすぎじゃないですかね…。名古屋にいたときより、酒の量がやばいです(笑)。

:先週は週6で飲んだよな(笑)。

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阿部:ああでもない、そうでもないとか言いながら。

:僕は、テルがお客さんでお店のカウンターに来てくれて、接客するんが楽しみなんです。一応僕が先輩やから、僕の言うたことを守ってくれるんですよ。お店のアカウントをつくったらいいよってアドバイスしたら、すぐにつくるし。

阿部:それはそうですね。つなぐ公社の報告会※3のことも、真宏さんに行った方がいいよって言われたけん、毎週行きましたね。18年ぶりに神山に帰ってきたら、小さい頃の神山のイメージと違いすぎて。移住者も、飲食店や新しい場所も増えてる。これまでこういうことがあったから、いま神山がこうなっとるんよっていう経緯や歴史を、真宏さんに話してもらうのが楽しみなんです。

やっぱり15年間も名古屋にいたら、文化が違いすぎて。あちらで当たり前のことが神山ではそうではなかったり、流行や、いま何を求めているのかが全然違います。

そういうものを、真宏さんがいろいろ教えてくれるんです。仕事に全然関係なくても、音楽やアニメとか、僕が持っていない知識やつながりをたくさん持ってるから。

つなぐ公社の方たちをはじめ、いろんな人を紹介してくれて。今回のインタビューもそうですし、タウン情報誌に載せてもらったのも真宏さんのおかげで、本当にありがたいなって思ってます。

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※昨年10月、神山中学校のバスツアーでは、「美容師に興味がある」という生徒のリクエストに応えて阿部さんより仕事の紹介をしていただいた。

:前回のインタビューで、「どちらいか」・「ブッダカフェ」・「山びこ」が第一世代だとすると、第二世代、第三世代と若い子が帰って来てほしいみたいなことを言ったんですよ。

こんなことを言うとおこがましいけど、テルが神山に帰ってきて美容院をオープンしたことで、“第二世代が帰ってきた!”て思ったんです。できる限りのサポートはしてあげたいし、頑張ってほしいしね。

ふたりとも、音楽好きってことも大きいと思う。そもそもDJもテルに教えてもらって、やりはじめたんですよ。

—今年、挑戦してみたいことがあれば教えてください。

阿部:今年は作品づくりにもしっかり取り組んでいきたいです。自分がカットした方がまちを歩くわけなんで、言ってみれば、営業も作品なんです。

一回一回カットやパーマに関して、クオリティを高めるのと、それをカメラに収めて作品としてまとめて個展をしたい。神山町を背景にして神山町の人にモデルになってもらって、自分のヘアを外に発信したいんです。

作品を見てもらって、おもしろいな、楽しそうだねと思ってくれる人を増やしたいし、そういう年にしようと思います。

:テルの個展はもちろん、一緒に“青空美容室”みたいなことをやりたいな。山びこの駐車場でテルがカットして、店内でお茶が飲める、とか。

はっきり言って、テルの美容院の立地がいいとは言えんけん、なかなかアクセスが難しい。待って来んのやったら、こっちから攻めるっきゃないでしょって。やるからには、SNSもうまく使って、フライヤーとかもつくって、コンスタントに発信していけたらって話してますね。

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—「神山はいま」どのように感じていますか?

:いろんなお店もできたし、すごくいいと思います。昨年テルが美容院をオープンして、僕も「山びこ」が2年目やし、こんな時代やけんこそ、みんなで協力して頑張ろうよって、まちの中で一致団結している感じがあると思います。

阿部:神山はいま、って言われたら考えちゃうけど、僕はいまが楽しい。遊んでばっかりやけん、その分仕事せなあかんのやけど。

:よう言うんですけど、バリバリ仕事して、バリバリ遊ぼうぜって!

阿部:そうそう、それがいちばん良いですよね。それから、同世代や20代の人たちが増えてほしいですね。

:帰ってきたくてもそれができない子がおるんが、現実問題でしょ。でも、ご飯屋さんできました、美容室できましたって、ますます神山に帰るハードルが下がっていっきょる気もするけどね。

阿部:たしかに遊ぶところができたから、“じゃあ、神山でいいか”ってなってくれたら。

:そうそう。いま、だいぶいい感じに育ってきてるよね。シンプルに帰ってきてほしいよな。絶対楽しいと思う。

それこそ、この前、テルが後輩を紹介してくれて。その子も広野出身で、帰ってこれるんやったら帰ってきたい、って感じやったもんね。

阿部:これからも、友達をいっぱい呼んで、神山って良いまちやろって。

:町民町内のバスツアーでも、参加者のみなさんによくお話しさせてもらうけど、結局言いたいことって、「神山って楽しいけん、おもっしょいけん、良いところよ」って、これに尽きるんですよ。

お互いを「テル」、「真宏さん」と呼び合い、兄弟みたいに仲の良いふたりのお話、いかがでしたか。
編集チームでは、記事のご感想のほか、この人に話を聞きたい!というリクエストも随時受付しています。

※1:グリーンバレーの前身「神山町国際交流協会」が、ALT制度で派遣されてくる外国人と地元の交流を持つために開催したイベント
※2:神山町で唯一の阿波踊り連、桜花連。神山町内を中心に活動している。
※3:「まちを将来世代につなぐプロジェクト成果と課題の共有会」のこと。

神山はいま、谷さん登場記事
https://www.town.kamiyama.lg.jp/kamiyama_now/2019/08/post-25.html

撮影:生津勝隆 
編集:高瀬美沙子

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