神山町 kamiyama-cho

神山はいま

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森林の中で日々過ごす3人が想うこと「自然の中でただ黙々と考えながら、作業するこの仕事が好きなんですよ」

令和5年 1月20日

神山町は、戦前から林業で栄えたまちです。秋から初春にかけての時期には、神領地区にある「徳島中央森林組合」の広場に、切りたての(丸木)丸太が所狭しと並びます。この期間は木の伐採にとっての「切り旬」の時期。野菜に旬があるように、木を切るにも旬があるのです。夏に比べて水を吸い上げていないため水分量が少なく、乾燥しても割れることが少ないのが、寒い時期に木を切る理由です。冬場、大きな丸太も積み重ねられた共販場の勇壮さは、神山ならではの故郷の景色ですね。

中央森林組合は、神山町だけでなく、周辺の徳島市、上勝町、勝浦町、佐那河内村などの森林整備を支えています。特に神山町は、スギやヒノキの人工林が山の7割を占め、山主も多い森林管理の重要な地域。曽祖父母、祖父母世代が植えた木々は、樹齢50~80年ほどに育ち、ちょうど切りどきを迎えています。

実際、森林組合の皆さんは、どのような場所で、どんな思いで仕事をしているのか。もっとも忙しい切り旬をひと段落終えた時期の若手職員の3人の方にお話を伺いました。

—森林組合に入った経緯を教えていただいてもいいですか?

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森準さん(以下 森):牟岐町出身です。牟岐町は海のイメージがありますが、牟岐の中でも山の出身です。だから山自体には昔から親しみがあったかもしれません。林業アカデミーに入る前は、365日呼び出しのかかる仕事をしていて、子どものために時間を取りたいと考えて転職しました。県の林業アカデミーの1期生です。

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小坂田達さん(以下 小坂田):僕も林業アカデミーの1期生。出身は愛知県ですが、田舎暮らしがしたいと思って祖父母が住んでいた神山に移住するのを決めました。その時に、たまたま林業アカデミーが始まるのを知って。それまでは、林業自体を全然知らなかったので、経験も知識もゼロからでした。今、森さんと僕は、伐採などの現場を担当しています。

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井上雄介さん(以下 井上):林業アカデミー4期生で、ここで働き始めて2年目になります。祖父母が2人とも、神山出身・在住です。資格もとれると考えて、アカデミーに入りました。去年は、山の調査を担当して、今年からは事務所内で、森林整備の事務作業と木材の共販場の担当をしています。

—山の中、自然の中で仕事をするということは、どんな感覚でしょうか。

:山に行って、木を切る毎日が普通になっています。仕事をしながら、ちょっと休憩しようと思って座ったら、その辺に虫やシカがいるのに気づくというのが、当たり前の毎日です。毎日、犬や猫を見かける回数よりも、シカを見る回数の方が多いんと違うかな。シカは、アニメ「もののけ姫」のシシ神みたいに見えてしまう時もありますよ。

—そんなに頻繁にシカに遭遇するんですね。シカと出会った時は、どうするんですか?

:ただ、お互いに、そこにおるだけです。構いに行ったりはしません。それがお互いのマナーというか、エチケットみたいなものですね。

—本当に自然の中で、自然と日々、共生するお仕事なんですね。

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井上:山の測量調査に行っていた時は、山の境界線が崖の上のことも多かったので、「調査」といっても、まるで登山のような毎日でした(笑)。足袋をはいて測量機器を背負って崖の上や、滝の上に行ったり。アドベンチャーですね。自然に触れながら、外で弁当を食べる楽しみもありましたね。

—まちの皆さんにとって森林組合は身近な存在ですが、そこで働く方々がどんなお仕事をされているかイメージがついていないかもしれません。普段は、どんなタイムスケジュールでのお仕事になるんでしょうか。

小坂田:その年どしで、変わりますが、年間の計画に沿っています。5月から6月ごろには、「切り旬」の伐採に合わせて、あらかじめ山に作業道を作っておく作業をします。6月は、町有林など公共の木を切っていくことが多いかな。それから、9月から年度末までは伐採で、忙しくしています。

伐採の場合、大体、朝は7時45分に森林組合に集合をして、現場にみんなで乗り合わせて出発します。最近は、車で15分くらいの神山町内の山の中が現場でした。現場に着いたら、重機をトラックからおろして、仕事の割り振りをして伐採がスタートします。チームは3~4人。木を1本切り倒す時間は、5分くらい。切り倒したものを、プロセッサーで造材して、道へ持ち出します。

:都度都度、木が道に向かって倒れるように、切った後の運搬のしやすさを考えて切っていきますね。吉野杉などは、山頂方向に倒れるようにしているようですが、その土地土地で考え方が違います。丁寧にしたいとは思うけれど、時間も人手も考えないといけない。

小坂田:うん。行き着くところは、人手が足りないよね。もし、切り倒したところに道がない時は、「スイングヤーダ」という機械で引っ張り出して、造材します。

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—どの木をどのように切るかは、どう判断するんでしょう。

小坂田:森林経営計画の中で、「今年度は、この範囲の山のこの部分を伐採し、植林する」と言うことが決められていて、計画に沿ってやっています。でも、現場で、どの木を切るかは、僕らが判断して決めています。一日に大体切るのは多い日で50から60本ぐらいでしょうか。地形によっても違うけれど。

井上:この仕事をするまでは意識したことがなかったけれど、木材の価値は、奥が深いと思うようになりました。木も大きかったらいいというものでもない。

:大きくても、急激に大きくなるとだめやね。じわじわ、ゆっくり育っていくといい。何に使うかによって、価値は変わってくるけど。

小坂田:はい。年輪が密になっているほど価値が高い。木が山に立っている時だけの外観では、その木の価値は分からないんです。外から見たら、木肌が綺麗で良さそうな木だなと思っても、切ってみると中の色味が黒かったりする。中の色味は、赤いほど価値があるとされているけど‥‥。

井上:そうなんですよね。でも、色味は黒いのがいいという人もいて。

小坂田:製材して、何に使うかで価値が変わってくる。おまけに真っ直ぐよりも、曲がっている木がいいという人もいる。

:山で木を切るとき、曲がった木を「悪い木だ」と一瞬、思うこともあります。ほなけど、例えばそこに岩があったから、伸びる時に曲がっただけで、その木は、ただ生きるために曲がって育っただけでもある。人間の身勝手で「いい」「悪い」の判断も、エゴかとも思う時がありますね。

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—計画に基づきながらも、目の前の木々や自然と向き合う。色々と試される仕事なんですね。神山の若い世代も、親御さんが山を持っていても、子どもや孫世代は、山のことを知らない人が多いと伺っています。

井上:山には、山ごとに所有者である「山主」さんがいます。神山は一人ひとりの持っている山の面積が狭い地域で、山主さんだけでも5000人いると思います。森林整備を交渉する相手がたくさんいる地域なんですよ。

最近は、ウッドショックのニュースを見て木が高値になっているから「昔植えたスギを切って欲しい」と言う問い合わせの電話がよくかかってきます。専務が対応するんですが、森林経営計画で何年も先が決まっているから、なかなか急に頼まれても切れないんですね。

小坂田:僕らが今、植林している木も、木材として切れるようになるまでには、50年かかります。長いスパンで考えないといけない。だから、山主さんが代替わりしたら、山の境界すら分からなくなってしまう。所有地の境界線が分からなくなってしまうと、山の手入れができなくなってしまうんです。そのままいくと、山が荒れてしまい、生態系にも影響していきます。

:未来を予測しての事業は、なかなか難しいですよね。僕らが生きている現在から、50年先を想像できるかと言われたらできない。ほなけど人工で植えたものは、手を入れてやらなあかん。手入れされていない山は、枝がザワーッとして土に日が入らないんですよ。伐採した後は、光が入って、空気が全然違うんです。僕は、自然の中でただ黙々と考えながら、作業するこの仕事が好きなんですよね。

小坂田:うん。切った後は、全然違う。手を入れている山とそうでない山はすぐ分かる。だから、僕は、もうちょっと若い世代にも、山のことを知ってもらえるといいなと思っています。

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毎日、当たり前に自然と向き合う仕事をしている森林組合の皆さん。神山町が山の上まで人工林だということは、半世紀前までは、山の上まで町民の生活圏だったということ。今は森林組合などの方々以外は足を踏み入れることの少ない大自然になっています。時代の移り変わりと、自然とを見つめ続ける3人の視線に、取材・撮影に同席した全員が心を動かされました。

神山の山のことをもっと身近に考えたい方は、「神山のやまを語る会」などでまちのみんなで話し合って策定した「神山の森林ビジョン」を読んでみてください。70年後に向けた私たちの暮らしと山との付き合い方が見えてきます。

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