神山はいま

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新店舗店主たちが語る、この町で店を構えた理由と果たすべき役割
「同じ職種同士が協力して、高め合う風土があればいい」

平成31年 8月 9日

定食屋、珈琲店、ビストロ、ピザ屋、ブルワリー…。多くの飲食店がある神山町。古くから続く老舗店をはじめ、移り住んできた人たちが新しくお店をひらくなど、賑わいをみせています。そしてこの春、『神山のラーメン居酒屋 どちらいか』『めし処萬や 山びこ』『Buddha Cafe』という3つのお店がオープンしました。この町で飲食店を始めた理由やオープンしてからの様子、今後の展望など、それぞれの店の店主である向井徳郎さん、谷真宏さん、マット・ローソンさんにお話を伺いました。

人との出会いがすごく楽しい

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ローソンさん(以下 ローソン) シリコンバレー生まれ。本業はエンジニアです。ビジネスを始めるのが趣味みたいなもので、色々なことをやっています(笑)。神山では、地域の人たちに手軽に美味しいものを提供したいという思いから、今は『スーパーかたやま』の敷地内でハンバーガー屋を経営しています。

谷さん(以下 谷) 生まれも育ちも神山町の谷真宏です。徳島市内の大学を卒業した後に、鳴門市にあるカフェで店長として働いていました。僕が小さいときは、神山でご飯食べる場所が殆どなかったんですよ。「スパゲッティが食べたい、ピザが食べたい、ハンバーガーが食べたい」って思っても、1時間かけて市内まで行かないといけない。それがすごいストレスだったんですよね。

で、自分がいざ「食」に関係する仕事に就くようになって、いつかは地元で店をやりたいっていう思いがあったんです。ご飯を食べる所もお酒を呑む所も少ないっていう現状を変えたかった。
あと、今の町内の若い子に、都会に行かなくてもこういう仕事ができるっていうんを見せてあげたいんですよ。「田舎におってもやる気さえあればどんなことでもできるよ」っていうメッセージが伝わればと思い、日々頑張っています。

向井さん(以下 向井) 私は大阪生まれなんです。10歳まで大阪にいて、親の都合で神山に連れてこられました。最初は田舎暮らしにすごい戸惑って、はっきり言うと嫌だったんですよね(笑)。それで高校は徳島市内に行き、卒業後は就職で大阪に。でも、3年ほどでやっぱり徳島に帰ってきて、徳島のバス会社に就職しました。

30年間勤めたんですが、ほとんどが徳島-東京間の夜行バスの担当で、よく東京でラーメン屋さんに行ってたんですよね。で、「いつかは自分もこんな美味しいラーメンを作れたらな」という思いが芽生えてきて、定年を迎えたときに店をやろうと思ったんです。

最初は徳島市内で始めるつもりでした。けれど、自分の人生を振り返ってみると神山町にあんまり目を向けずに生きてきたので、地元の人とのお付き合いもそんなになくて。それだったら自分の店が交流の場になればという思いもあり、町内に店を開きました。

ー実際、お店を始めてみてどうでしょうか?

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 オープンしたのが3月半ばだったんです。今年は桜の咲き始めが早かったんもあって、実際かなり忙しかったですね。ゴールデンウィークが終わってどうなるかなって感じでしたが、自分が設定した売上の数値はなんとかクリアできてるので、直感的にやっていけると思っています。

地元の人からの反応もすごい良いんですよ。若い子が店やるんはええわって(笑)。その反応だけでもシンプルに店を始めて良かったなって。今は毎日が充実していますね。

向井 私も店を始めて、とりあえずの夢は叶ったので、本当に良かったと思います。最初はゆっくりとやるつもりやったんですけど、移り住んできた人も外国の旅行者さんも多く来ていただいて、日増しに口コミでお客さんも増えています。今まで知らんかった人と知り合いになれたり、人との出会いがすごく楽しいです。

経営のことはまだまだ計算できてない所もあるんですけど、毎日手がまわらんくらいお客さんが来てくれるんで、いけると思います。ただ、体が本当にくたびれてあかんときもあったけどね(笑)。

ローソン 今、一番困っていることは人手不足。3,4人応募してくださった方はいたんですが、皆さん料理を専門に学んだり、飲食店での調理経験がある方ではなかったので、教えることに時間がかかりすぎるという難しさがありました。たとえば「玉ねぎを切っておいてください」っていう基礎的なお願いでも、一から教えていかないといけない。でも、自分たちにもそんな余裕もないし。

そういうのを最低限共有できている人を見つけることが、本当に難しいです。自分が求める条件・スキルで考えると、なかなかハードルが高いのかもしれません。でも、働きたい人がいれば、是非来てほしい(笑)。

 うちも人手不足は深刻ですね。店に張り紙をしたり、『イン神山』に求人情報を載せてもらったりもしとるんですけど、今の所リアクションはないですね。向井さんはどんな感じですか?

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向井 僕は今後、自分だけでまわせるようにと思ってるんですよ。人ひとり雇うんでも、かなり経費がかかるじゃないですか。人件費が一番重いんですよね。

 そっか。うちはこのキャパだと、ひとりじゃ絶対無理なんですよ。

向井 谷さんのお店は無理やろなあ。うちでもちょっと大きいくらい。始める前はアルバイトさんに入ってもらったらいけるわって、気安うに思ってたんやけど、やっぱり人件費ってすごい。

ローソン 保育所のお母さんたちに「働きたい人いませんか?」って話をしたこともあるんですけど、声は上がってこない。スタッフだけで良いチームができて、自分が一歩引いた立場でプロジェクトを見られたらと思っているので、切実に働きに来て欲しいですね。

 

小さいコミュニティやけんこそ、協力できる

ー物件探しはどうでしたか?

向井 すごく苦労して、奥の方まで探しに行きました。でもほれも運命なのか、今の所が空くっていうのを聞いて。最初は家賃にびっくりしたんですけど(笑)。

 向井さん所、僕も紹介はされたんですよ(笑)。

向井 (笑)。

 けど、自分もたまたま良いタイミングで物件のお話をもらって。

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ローソン テンポよく進んでいくときが来ますよね。私も『スーパーかたやま』に4台分だけ駐車場のスペースを借りられないかって聞いたら、案外さらっと決まりました。

でも、自分がやってみて思ったのは、場所(物件)を探すときに役場からのサポートがもっと充実していると良いと思います。どうしてもそこのハードルがすごく大きいので、とにかく行政にお願いしたいのは、使える土地の提供や紹介ですね。
場所とアイデアがあればローンも組みやすくなって、新しい物事を始めやすくなりますし。

向井 もっと仲介してくれる業者みたいなのがいれば良いよね。店をやりたい人と空き店舗を貸したい人を、上手に繋げてくれるような人がいれば。

 それとあわせて、何かサロンみたいなものがあったら面白いですよね。おこがましいけど、僕らは先に店を始めてるんで、次やる人のヒントにもなるだろうし。
こないだローソンさんと話してたときに、外国では同業者同士がもっとアドバイスをしあって切磋琢磨していくって聞いて。あ、そういうん良いなって。

ローソン アメリカでは「同じ職種の人たちが協力して高め合う」という風土があるので、神山にもそういうものがあれば良いですよね。私たちもそれぞれの店が競合しているわけではなくて、違うスタイルでお客さんを持ってるというか。お互いが潰し合うことなく、やっているのはすごく良いことだと思う。

 ”神山だからこそできること”っていうのもあると思うんですよ。小さいコミュニティやけんこそ協力してできるっていう。

 

失敗を許容する文化がもっとあればいい

ー町の変化はどう見ていますか? 店を始めることへの影響はありましたか?

 僕は正直、移り住んで来た人たちばっかりに盛り上げられるんも、言い方悪いけど「癪やな」っていうんがあって(笑)。やっぱり地元の奴がやらなっていうんは大いにあるんです。

向井 私は夢を叶えさせてくれたと思ってますよ。『WEEK神山』さんや『かま屋』さんが、この町でも商売できるんじゃって、その気にさせてくれましたから。だから、町が変化したり、移り住んで来る人たちが増えているのは大いに歓迎。大歓迎ですよ。

ローソン 移り住んできた人たちがもたらしたものって、神山がメディアに取り上げられる機会を増やしたことですよね。それが飲食店なのか靴屋さんなのか分からないけれど、神山という町が認知されるきっかけは作ったと思います。「ネット環境が整備されていて、川で仕事ができる町」みたいな。多くの人に素敵だなって思わせるのは素晴らしいことですよね。

 勿論、僕も刺激を受けたし、感謝もしてるんですよ(笑)。
でも、自分らでもできるって思うんですよ。都会の人やけん、おしゃれな飲食店ができるって町の人は思ってるかもしれないですけど、そうじゃない。「神山生まれ神山育ちでも、これだけできるんじゃ!」っていうんを分かって欲しいよね。それが次に店しようとする人にも繋がってくるとも思うし。

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ー今後の展望は?

 結局、僕らもまだ店を始めて4ヶ月くらいじゃないですか。どう変わっていくのかも、まだ分からないですよね。けど、もっとお客さんに来てもらうためには、町の人の意識を変える必要が絶対ある。外食文化を持ってもらうというか。何年かかるか分からんけど、絶対変わっていくと思います。

向井 地域とコミュニケーションをとれることが楽しいんですよね。サテライトで働いとる人や外国の人と話すと、自分の視野が広がってくる。これがね、60歳を超えた人間にはなかなかできないことなんですよ。もっと色んな人と知り合いになりたい。
あと私は、昔の賑やかだった頃の神山を知っとるんで、そのときみたいにもっと活気づいたらと思っています。寄井商店街がアーケード街みたいになったら良いよね。

ローソン 失敗を許容する文化が、神山にもっとあるべきじゃないかと思います。失敗を恐れないマインドを持てれば、もっと色んなことが起きる可能性がある。
神山の人たちも、持ってるアイデアをどんどん実行に移していってほしい。神山でビジネスをするのは幸せなことですからね。

 田舎でしかできんような助け合いをしながら、もっと盛り上がっていけば良いですよね。それでね、今の若い子に「神山良い所やけん、出ていかんでこの町におりだ」って伝えたい。

僕が飲食店をやり続けることも、神山の活性化に繋がっていくと思うんですよ。向井さんもローソンさんも、自分のやり方で活性化を考えてる。役場の人もそうだと思います。だから、すぐには結果が出んかもしれんけど、それぞれができることを続けていくべきですよね。

向井 これから皆でできることを、話し合っていきたいですね。酒呑みながら本音で話し合いましょう(笑)。

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