ホストファミリー・引率の先生が感じた、神山町国際交流事業の〝いま〟
「普段できない経験を積み、子どもたちが成長する」
令和2年 3月30日
今年度で3回目を迎える『神山町国際交流プロジェクト』。町内在住の中高生、または城西高校神山校に通う生徒が、夏にオランダへ訪問。秋にはオランダの学生を神山へ受け入れ、お互いの文化や価値観について理解を深め、交流を図っています。今回は、オランダに行った生徒の保護者であり、ホストファミリーとして受け入れも経験している、矢武洋一(やたけよういち)さんと高橋格子(たかはしのりこ)さん。そして、引率でオランダに訪問された、城西高校神山校の佐藤智子先生にお話を伺いました。
視野が広がり、考え方が変わった
矢武さん(以下 矢武) 広野に住んでいる、矢武洋一です。出身は東みよし町なんですが、妻の実家が神山で、14年前からこちらで暮らしています。国際交流事業は、2年目のときに娘がオランダに行かせていただき、オランダの生徒さんもうちで受け入れました。
高橋さん(以下 高橋) 高橋格子です。徳島市内の出身で、神山に嫁いで30年近くになりました。国際交流との関わりは初回のときからで、三男がオランダに。それからは、毎年受け入れもさせていただいています。
佐藤さん(以下 佐藤) 城西高校神山校の佐藤です。8年程前に赴任し、今も徳島市内から通っています。私も国際交流事業には初年度から関わっていて、今年度は自分がオランダに引率する側として行きました。
ーオランダとの国際交流は、お子さんや生徒さんにとってどんな経験でしたか?
矢武 オランダの子と交流することで、視野が広がり、考え方が変わったような気がしますね。前に出ていくタイプではなかったんやけど、自分から発信するようになったというか。
特にそれを感じたのは今年度。オランダの子らを受け入れるときに、BBQ大会があったんです。その企画に、うちの子も参加させてもらって。買い出しから下準備まで全部自分たちでやって、最終的には70人くらい人が集まったんです。そういう成長を目にしたら、親としてもすごい嬉しいですよね。
高橋 うちの三男は、オランダの子たちが自分の意見をはっきり言うことに、すごく驚いたと言っていました。それに、言葉が分からなくても、こちらの話もすごくよく聞いてくれる。「で、君はどうしたいの?」って、ずっと言葉を待つらしいです。自分が発言しないと先に進まない。
佐藤 向こうの人たちは「失敗を恐れない」って。どうしても日本人って、ちょっと先のことを考えてしまうじゃないですか。発言にしても、「これ言ったら何か後で言われるかも」みたいに考えてしまう。でも、オランダでは色んな意見が出て当たり前。どんな発言をしても良いし、チャレンジ精神が強いんですね。自分たちも、もっと意見を持たなあかんって気付いたみたいです。
高橋 伝えることや聞くことの大切さを、実感したんでしょうね。
矢武 なかなかそういう気付きってないし、良い経験だと思います。
語学力がなくても、案外どうにかなります(笑)
ー逆に受け入れはどうでしたか?
矢武 自分の家に外国の人がいること自体が、非日常というか。
高橋 たしかにそうですよね。
佐藤 言葉の壁もありますよね。私の家は、オランダから来る引率の先生のホームステイ先だったんですが、市内からの通勤中は車でふたりっきりという状況で(笑)。なんとか喋れる単語を絞り出しながら、会話をしてました。
高橋 うちでは、行きたい所を聞いていたら「温泉に行きたい」って話になって。うちの長男が大の温泉好きなので、張り切って準備をしていたんです。でも私は、ヨーロッパの人が温泉に行きたいなんて言うかなあ? ってすごく疑問で。だから、もう一回ちゃんと確認しようと改めて聞くと、「温泉には絶対行きたくない」って言ってたんです(笑)。どこかで言葉の行き違いがあったみたいで。
矢武 まあでも、語学力がなくても、案外どうにかなりますよね(笑)。
高橋 私は、Google翻訳にすごい頼ってましたけど(笑)。
一同 (笑)。
佐藤 プログラムの中で、一日ホームステイ先の人たちと過ごすフリーの日があるんですけど、そういうのも面白かったですよね。いわゆる観光地に連れて行くんですが、意外と私たちも行ったことがなかったり。
矢武 何処に行くか考えるんも面白いですよね。
うちはふたり受け入れたんですけど、オランダの子たちだけで部屋で過ごしてる時間もありました。プライベートの時間も大事かなと思って、そういう配慮もしましたね。
高橋 そうなんですか。うちは、台所のテーブルにずっといましたね(笑)。家庭によって差があるのかも。
佐藤 受け入れた引率の先生は、男の子3人のお母さんだったんです。朝はいつもバタバタで、子どもに「はよしなさい!」って怒ってるという話を聞いて、子育ての環境は世界共通なんだなって(笑)。
でも、働き方は全然違いました。向こうの人は週に4日働くか5日働くか選べるみたいなんですね。そういう日本との共通点や違いを聞けたのは、すごく面白かったですね。
矢武 受け入れたら、結構楽しいですよね。忙しいんですけど、家族としても一つの目標に向かって進んでいくというか。うちは祖父母もすごく支えてくれました。
高橋 家族の会話は増えますよね。うちは普段、生活リズムが違うので食事もバラバラにしてるんですけど、受け入れの準備をするときは、家族間のコミュニケーションがすごく活発になる。何かある度に「ああしよう、こうしよう」と話し合うので。
矢武 家族全員が協力してこそ成り立つのは、間違いないと思います。
色んな家族に、国際交流を経験してもらいたい
ー神山の国際交流事業の特長は?
高橋 町が主催ですが、小学校から高校まで教育機関も深く関わっていて、なおかつ、ホームステイ先が地域の家。町・学校・地域の三者が協働しているのが、神山の特長じゃないですかね。
佐藤 人の輪が、年々広がっているのを強く感じます。神山に来たことがあるアーティストが、オランダでの訪問先を紹介してくれたり。その逆にオランダの方が、神山に長期滞在して、国際交流に関わってくれたりとか。そうやって関わる人がどんどん増えていくのも、神山らしいですよね。
矢武 神山に来た人が、自分の場所に戻って神山の良さを伝えてるんでしょうね。で、また他の人が興味を持ってくれるっていう。
高橋 今年の4月には、再度神山に来られる生徒さんもいるんですよね?
佐藤 オランダの学校では、海外でインターンを経験するというプログラムがあるみたいなんです。普通はヨーロッパ圏の国に行くんですが、以前こちらに来た子たちが「神山との繋がりがあるから、もう一度来たいんだ」って。
高橋 そういうのは嬉しいですよね。
-今後に期待することを教えてください。
高橋 受け入れに関していうと、せっかく神山に来てくれるんだから、神山ならではのプログラムがあっても良いかなと思います。地域のお年寄りの方にお話を聞いたり、稲刈りをしたり。そういうのも面白いですよね。
あとは、受け入れの家族がもっと増えたら良いかな。「経費もかさむでしょ?」って言われるんですけど、食費くらいですしね。それ以上に経験は得られます。
矢武 普段できないような経験を積み、子どもたちがもっと成長し、親がそれを実感できる。本当に素晴らしいプログラムだと思います。だから、もっと色んな家族にこの経験をしてもらいたいですよね。
佐藤 年を重ねるごとに、プログラム自体の精度は上がってると思うんです。最初の年はバタバタで始まったのが、町民を巻き込んでどんどん面白くなっている。なので、もっと関わる人が増えていけば良いですよね。
大変なことも勿論いっぱいありますけど、達成感もあるし。オランダの子たちが帰ると寂しくなりますから。「ああ、終わっちゃった」みたいな(笑)。
高橋 また今年の秋に来てくれますよ(笑)。