変わりつつある保育の状況と、神山での子育ての〝いま〟
「独り立ちするまで、町が見守る制度は整っている」
平成31年 4月 3日
神山町にある保育所は『広野保育所』と『下分保育所』のふたつ。ここ数年、移り住んでくる人の増加や家族形態の変化により、入所希望者が増えてきているといいます。そこで今回は、下分保育所所長(4月より広野保育所所長)の林美智代さん、神領小学校の放課後児童クラブで働かれている森本友里香さん、役場健康福祉課の矢武朋子さんにお話を伺いました。保育状況や子育て事情、また役場からのサポート体制などは、どうなっているのでしょうか。
子どもの数が多くなっていくとは、思いもしなかった
林さん(以下 林) 下分保育所で所長をしている、林です。出身は阿波市で、24歳のときに神山の人と結婚して、この町に来ました。歌うことや楽器を演奏することが好きだったので、そういったものを活かせるような仕事に就きたいという思いがあり、保育士の道へ。人として基礎となる一番大切な時期に関わっているということを自覚して、責任とやりがいを感じながらやってきました。今はこの仕事で良かったなあ、と思っています。
森本さん(以下 森本) 広野に住んでる森本です。出身は北島町で、私も結婚して神山に来て、住み始めて10年くらい。子どもは男の子ばっかりが3人います。
去年の春からは、神領小学校の学童保育でも働き始めました。
矢武さん(以下 矢武) 宮崎県日向市で生まれて、大学から大阪に行きました。管理栄養士として大阪の病院に勤めていたんですが、色々あって徳島の企業に就職し、そこで知り合った神山の人と結婚して、役場で仕事を始めました。今は健康福祉課に所属しています。まだ神山には住み始めて1年くらいです。
ーまずはじめに、今の保育の状況を教えてください。
林 私が所長になった平成28年度から途中入所の子が増えてきて、今年度は0-2歳児がいっぱいいっぱい。来年度はもっと多くなると思います。
今、子どもの数は56人で、そのうち25人は移り住んできた方のお子さんたちです。
昔はいわゆる専業主婦の方や自営業の方が多かったのと、祖父母が面倒を見てくれる場合が多かったので、2歳児からしか預かってなかったんです。その後、0歳児も預かるようになったんですけど、やっぱり時代の移り変わりもあって、ここ数年一気にその需要が増えてきていますよね。
ここまで子どもの数が多くなっていくとは思いもしなかったので、今、保育所がかなり手狭になり、困っています(笑)。
ー子育ての環境は、どうでしょうか?
森本 個人的には、子育てをする上で何の不満もないです。神山町のサポートは、本当に手厚いんですよね。医療費は無料ですし、保育料も子ども2人目からは無料。給食費も町が負担してくれてます。子育てをする上で、経済面では本当に助かっていますよね。
私自身は北島町で育っとって、1クラスに40人おるんが当たり前の環境だったので、神山で子育てして大丈夫かっていう悩みもあったんですよね。けど、子育て支援センター(広野/パンダ組)とかに小さいときから行かせてもらいよって、やっぱり神山の人のあたたかさっていうんをすごい感じて、一番上の子を小学校に入学させたんです。
そしたら、やっぱり良い所しか見えてこないです。うちの長男は広野小学校の3年生なんですけど、男の子ふたりと女の子ふたりの4人しかいないんですよね。そしたらその分、先生も気にかけてくれるというか。皆を大事にしてくれているっていう実感があります。
尚且つ、イベントや校外学習っていうんもすごい多くて。市内の学校やったら経験できんことも、沢山させてもらってると思うんです。だから、本当に何の不満もありません。
ー学童で働いてみて、感じることは?
森本 街の子と比較するわけじゃないですけど、神山の子はすれてないですよね(笑)。女の子とかはちょっとマセてる子もいますけど、根はすごい可愛くて、やっぱり人のことを思いやる子どもが多いと思います。
ー役場で働いている矢武さんはどうでしょうか?
矢武 私は、学童や保育所の日々の運営を、サポートする立場です。入所にあたって適切かどうかっていう判断をしたり、児童手当とか子どもにかかわる補助金の給付の担当をしています。そういうのを受け付け、入所やお支払いにつなげたりするのが主な業務です。
私たち職員は、町の制度が結構手厚いと思ってやっていたんです。というのも、一度他の町の議員さんが視察に来られたときに、「子育て環境について勉強して帰りたい」という要望がありまして。そのときに、健康福祉課と教育委員会から関係者が集まって、自分たちのやっていることを話す機会があったんですよね。
それで改めて列挙したときに、神山は本当にサポートが充実してるなあっていうのを再確認したんです。ただ、それを住民の方がどう思ってくれてるんだろうっていうのは、ずっと気になっていたので、今日聞くことができて良かったです(笑)。
森本 (笑)。これ以上言うたら、バチがあたりますよ。考えつくかぎりのことはしてもらってると思います。
矢武 さっき森本さんが言ってたこと以外にも、高校へ行くときにバス代の補助があったり、将来町に帰ってくると返還不要の奨学金があったりと、子どもが独り立ちするまで町が見守る制度は整ってるのかなあ、と思いますね。
地域の人に支えられている
ー課題を教えてください。
林 先程も言ったように、移り住んでくる人が多くなったんですけど、皆さん移住する前はまさか保育所にこんなに子どもが沢山いるとは予想してないと思うんです。あと神山の保育所なので、自然の中でのびのびと遊ばせてくれると保護者の方は思ってるんですけど、それも安全面とか衛生面の問題で、そこまで自由に遊ばせてあげられてない。自然を活かした保育って、結構難しいんですよね。
色々なニーズがあるんですけど、それになかなか応えられてないのが現状です。
でも、下分保育所は環境がすごく良くて。隣にある下分小学校が休校になってるんで、体育館やグラウンドも使わせてもらえるし、下の方に行くと結構広い畑や広場もある。
地域の人にもすごい支えられてるんですよね。運動会とかレクリエーション大会とかも、地域と一緒にやってますし。小学校がない分、保育所をすごい大事にしてくれていて、結びつきが強いですね。
矢武 課題というか、足りないなって思ってることなんですけど。移り住んできた人たちって、病気になったり怪我をしたときに、頼れる人が少ないんですよね。身内や親戚が近くにいない人が殆どなので。民間の託児所とかは地理的にも難しいので、それをカバーできるサポートがあれば良いのかなって。
ー具体的にそういう事例が?
矢武 「保育所が休みのときに、何かあったらどこに行ったら良いですか?」みたいな質問はよくあります。親御さんが体調崩すときとか、用事が急にできたりとかもありますし。地域の人に助けてもらう、っていうんもやっぱり限界があるので。
林 病気のときもね、病児保育っていうたら石井町まで行かないといけなくて。なかなか行きづらいっていう話もよく聞きますよね。
ー森本さんは、課題と感じていることは?
森本 満足してしまっとるけん、出てこない(笑)。
林・矢武 (笑)。
ーでは逆に、制度以外に神山で良かった点は?
森本 広野は保護者同士の距離も近いけん、ちょっとのことでも相談ができるんですよね。小学校1年生から6年生まで皆知ってるし。なんせ人数が少ないので(笑)。
矢武 保護者の方同士も繋がってるんですね。
森本 繋がってますね。人数が少ないけんこそ、そこらへんは密です。保育所の保護者会終わりの打ち上げとかで、神山について語ったりとか。学童の保護者会の総会でも広野は座談会みたいな感じで、言いたいことを言い合ってます(笑)。
矢武 神領に比べると、広野の方が要望が多いですね(笑)。
森本 ですよね(笑)。皆のことを知ってるから、意見を言って他の親御さんになんか思われたらどうしよう、とかいう気持ちがあんまりないんですよ(笑)。
先生とのコミュニケーションもすごくあります。それこそ「ちょっと鼻血が出てきました」とか「今日はこういうことができました」っていうレベルでも電話くれたり。個人懇談も30分は当たり前にとれますしね。そういう所も広野だからこそ、信頼関係が築きやすいと思います。
こういう町だと、安心して子育てができる
ー最後に改めて、神山の子育てと保育について聞かせてください。
森本 うちの子どものことを地域の皆が知ってくれてるんですよ。そんなん普通は、絶対に知らないじゃないですか。びっくりしたんは、健康福祉課の方が子どもの生年月日まで覚えてくれとるんですよ。何で知っとるん? みたいな(笑)。
矢武 名前とか生年月日は勿論、生い立ちとかも保健師さんは覚えてますね。いつ生まれて、何歳で歩き出したとか。
森本 そうなんですよ。しかも、保健師さんが新しい人に変わっても、ちゃんと引き継いでくれてたり。こういう町だと、安心して子育てができますよね。
矢武 私はまだ子どもがいないんであれですけど、もし今後自分にできたら、勿論神山で育てていきたいと思っています。そのときはよろしくお願いします(笑)。
森本 よろしくお願いします(笑)。
林 下分保育所に関しては、建物が狭かったりとか、さっき言った自然を活かした保育のこととか、色々と課題もあります。でも、神山は学校の数も少ないんで、保育所から高校まで連携して色々とできてると思うんです。
こないだも小・中学生や高校生が、職場体験で保育所に来てくれたんですよ。その中で、「保育士になりたい」とか言ってくれる子もいて、とても嬉しかったです。将来に向けて関係性を作っていくことができてるんじゃないですかね。
それは神山町全体の教育が良いんだと思います。
これまでは子どもが減っていく一方でしたけど、今は少しずつ増えているのも実感しているので、もっと保護者のニーズに応えられるようにしていきたいと思っています。やっぱり子どもが多いのは、活気があっていいことですからね。