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神山はいま

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高齢者の「食」と「暮らし」を支える、配食サービスのいま
「弁当を持っていくだけが仕事じゃない」

平成30年 8月16日

今回は「配食」という形で高齢者を支えている『tomos』の渋谷のぞみさんと『志甫亭』の志甫守さん、そして生活全般をサポートしている『神山町地域包括支援センター』の浦山恵美さんにお話を伺いました。高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)が50%を超える神山において、配食サービスの役割と課題はどういうものなのでしょうか。高齢者と日々接する3人だからこそ話せるエピソードも含め、聞かせていただきました。

食べることが、元気の源

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浦山さん(以下 浦山) 今、神山町の高齢化率は50%を超えています。勿論、ひとり暮らしや高齢者だけの世帯っていうんも増えてきとって。そういう状況の中で、高齢者の方の「食」に関していうと、皆さん年齢を重ねるにつれて、自分でおかずを作るのがやっぱり難しくなってるんですよね。

なので、お惣菜を購入してきてそれを食べている人が多く、必然的に栄養のバランスも悪くなっています。
やっぱり、「食べること」ってすごく大切じゃないですか。口から食べることが、何より元気の源ですよね。だから、食事を一番に整えてもらいたいと思っているんです。

ー実際、お弁当を届けているお二人はどう感じていますか?

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渋谷さん(以下 渋谷) 現状の率直な感想としては、神山の人たちはすごく元気です(笑)。元気だし、まだまだ自分たちでできることはやろう、っていう気持ちが強いんですよね。配食サービスの説明をしても「まだ元気やからええわー」とか「また必要になったら言うわー」っていう意見が多くて。

でもこれから先は、もっと需要は増えてくると思っています。実際、最近まで元気だった人が急に体調を悪くして、配食が必要になった例もありますし。
だから、必要としてくれるその時まで、tomosをどうにか継続していかなきゃな、っていう思いが強いです。

浦山 今、渋谷さんたちが配達してくれているエリアは、配食が必要な高齢者の人も少ないんかもしれない。それと、ヘルパーさんが入っとる家は掃除や調理をしてくれるので、配食もいらないんですよね。けど、ヘルパーさんの平均年齢も高齢化してきよるんで、将来的に人手不足になるんは不安な所ではありますよね。

ー志甫さんはどうでしょうか?

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志甫さん(以下 志甫) 今は1日30件くらい配達しよんかな。僕やはただ生活のサポートをさせてもらいよるだけで、呼んでくれたら行くっていう感じ(笑)。「弁当持って来てくれ」って言われたら「はいはい分かりました~」って。

でも「できたら元気なうちにいっぱい呼んでよー」とは言いよんやけどな(笑)。「弱ったら病院入らなあかんでよ」って。やっぱり長い付き合いがあるけん、体の調子が変わっていくんも、段々弱くなっていっきょるんも分かるんよ。そんなん見よったら、気持ちが入ってくるんよなあ。

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出典:神山つなぐ公社「高齢者配食サービスのいま」(撮影:川口映像事務所)

ほなけん、配食で行ってもただお弁当渡して終わりじゃなくて、新聞受けを見たり、配食先以外の家の様子見たり。畑しよる人がおったら、手を振ってあげたりもしよんよ。僕の車には「志甫亭」って書いとるけん、僕の顔は知らん人も車は知ってくれとるんよな。
そういうんもあって、配食は、弁当持っていくだけが仕事じゃないって最近よく思うなあ。

そういえば、こないだ畑しよる人と話しよったら「おまはんが通ったら12時やけんお昼の時間じゃ」って言われた(笑)。「どして分かるん?」や言うたら「おまはんの来る時間は大体決まっとるけん分かる」って。「こないだはちょっと遅かったなー」とかも言われて。あれにはまいった。えらい所で時間を把握しとんやなあって(笑)。

浦山 遅刻できないですね(笑)。

志甫 ホンマよ(笑)。

「見守り」には、配食が一番適している

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出典:神山つなぐ公社「高齢者配食サービスのいま」(撮影:川口映像事務所)

渋谷 志甫さんが仰ってること、すごくよく分かります。tomosはお弁当の配達だけじゃなくて、「見守り」や「お手伝い」も兼ねているサービスなんですね。お弁当を届ける午前中はゆっくり話す時間がないんですけど、午後、食べてくれたお弁当箱を回収する時には、一緒にお話したりお茶を飲んだりもするんです。

そうやって会話をする中で「今日は体調どうですか?」とか「ご飯はよく食べれましたか?」って聞くようにしていて。もし、様子がおかしいなって思うことがあれば、すぐに浦山さんはじめ包括の人に報告するようにはしています。

浦山 前に一度、倒れとる人がおった時に連絡をくれて、すぐに対応できたことがありました。

渋谷 まあでも、そういうのは頻繁にあるわけじゃないので、基本的には雑談をしてるだけなんですけどね(笑)。でも、お弁当だけポンって置いて帰ってたら、その倒れてる人にも気付かなかったかもしれないし。
何かが起きる前の段階で、配食とは別にできることがあるとは思います。

ご家族の人からも「一緒にお茶飲んでくれてありがとう」って言葉をかけてもらうこともあったんです。やっぱり離れて暮らしてるから、気にはなってるみたいで。「たまにでも、そうやって話してくれたら安心やわー」って。

志甫 僕も今まで3回ほど人が倒れとる現場に遭遇して、家族とか包括の人に来てもらったことはある。すぐに救急車が来て、その時は助かったんやけど、結局3日後に亡くなったんよな。その人は前から病気しとったような感じだったんよなあ。ほなけん、よっぽど辛抱しとったんやと思う。
でも、家族の人らは「病院で亡くなったけん良かった。志甫さんありがとう」って言うてくれて。

浦山 離れて暮らしてるご家族の人もたまに連絡とることはあっても、毎日の状況っていうんは分からんけん、不安だと思うんですよ。でも、何か異変があった時には、配食の人が様子を見て状況を伝えてくれる。そこの連携がしっかりしとったら「見守り」っていう点では、配食が一番適してると思いますね。

高齢者の方には、やっぱり家に住んでもらうんが一番だと思うんですよ。入院したり、老人ホームに入所したりすると、すぐにお金がかかるんで。だから、家でおる期間を長くしていきましょう、って私やは伝えていっきょんやけど。

渋谷 この事業を始める前から、浦山さんには色々と相談に乗っていただいていて。どういうふうな声掛けをした方が良いのか、何に気をつけたら良いのかなど、そこは緊密に連携をとれてやれていると思います。

浦山 私たち包括の人間もtomosのお弁当をとってるので、その配達のときに色々と話し合いながら。

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渋谷 お弁当の配達がない日も「浦山さーん、これどうしたら良いですかー?」って相談に行ってますけど(笑)。

ーtomosさんと志甫亭さんは、お互いのことをどう見ていますか?

渋谷 実はtomosを始める時に、志甫亭さんがいるのに自分たちが配食を始めてもいいのか、っていう意見もあったんです。私を含め、tomosのメンバーは神山出身じゃないし、町に来て日も浅いし。
でも、いざ事業がスタートして、配達の時とかに志甫さんとすれ違うと「お!今日の配達はどうや?」とか声をかけてくれて。私はそれがすごい嬉しかったんですよね(笑)。

志甫 いやまあ、僕もいつまでもできるわけじゃないし(笑)。次の人にも、どんどんやってもらわな。

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渋谷 でも、志甫さんがいてくれて、本当に良かったと思うんです。今って、配達してる地域も違うし、客層も少しずつ違うんですけど、中にはお昼をtomosで食べて、夜は志甫亭さんで食べるっていう人もいる。そういう利用の仕方をしてくれるのって、すごい良いなあって思っていて。
配食をやってるのが自分たちだけだったら、利用者さんたちのニーズにきっとこたえきれない。だから、お互いが補完しながら一緒にやっていけたらなって。

浦山 一緒に、「高齢者の食」を支えてますもんね。

渋谷 そうなんです(笑)。

志甫 そう言ってもらえたら、ありがたいなあ(笑)。まあ僕は、一人でも喜んでくれるお客さんがおってくれたら、それでええんよね。やけん、利用しやすい方を利用してくれたら良いんよ。「ありがとう」って言ってくれる人がおったら、その人を大事にするだけやし。

もっと色んな人に、お弁当を届けたい

ー今後の課題は何でしょうか?

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浦山 これから更に配食の需要は増えてくると思うんです。でも、大手の配食サービスは儲けが出ないので、神山町には入ってこられないみたいで。だからこそ、そうなった時に志甫亭さんがやめたり、tomosさんが事業継続できなくなったらどうしよう、っていう不安はあります。両方が共存してくれたら一番良いんですけどね。

渋谷 tomosとしても、配食事業だけでやっていくのは現状かなり厳しくて。
だからといって利益を出す為に、地元のお店にお願いしてるお弁当作りまで自分たちでやるとなると、午後からお茶を飲んでゆっくりお話する時間が取れなくなってしまう。逆にお弁当の値段を上げるっていう手もありますけど、そうすると今度は利用者さんに負担がかかる。
でもでも、やっぱり会社なので利益は出さなきゃいけない…みたいな(笑)。そういう葛藤はありますよね。

だから、今はお弁当を続ける為に他の収入源となるものを探してる感じです。お弁当を配達してる中で、見守り+αの何かがあれば一番良いんですけどね。
必要としてくれる人がいるかぎり、どうにかしてtomosは残していかなきゃなって思うので。もっと色んな人に会いたいし、お弁当を届けたい。

ーその気持ちの源泉は?

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出典:神山つなぐ公社「高齢者配食サービスのいま」(撮影:川口映像事務所)

渋谷 源泉って言われると難しいな(笑)。でも、毎日行ってると利用者さんも笑顔を見せてくれるようになったり、生き生きと話をしてくれるようになるんです。そういう変化を見るのが私はすごく嬉しいし、意味のあることだと思っています。些細なことなんですけど。

ー志甫さんが、配食を続ける理由はなんですか?

志甫 僕は生活の為やけんなあ(笑)。そもそもは家族を守らないかんけん、仕出しとは別にお弁当の配達を始めたんよな。決してお客さんの為とかは思ってなかった。

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出典:神山つなぐ公社「高齢者配食サービスのいま」(撮影:川口映像事務所)

けど、今は子供も大学卒業して大人になって。お弁当を取ってくれたお客さんに、僕やは育ててもろたんよなあ。ほなけん、損得勘定とかそんなんは関係なく、この恩は絶対に返していかなあかん。
途中で辞めるわけにはいかんのよ。

浦山 こうやって言うてくれてるふたりがいるので、やっぱりどうにか配食を無くさないようにしていきたいですね。今、私の同級生も県外に住んでる人が多いんですけど、ちょうどその両親が80歳くらいになってきてる。お宅を訪問させていただく時にも「○○ちゃんのお母さんなんやねー」とかいう会話がよくあるんです。

でも、そうやって県外におる人たちには、配食を含め色んな福祉サービスがあることが、まだまだ知られてないんですよね。神山に親ひとりで暮らしとるけど、生活のことをどこに相談したら良いか分からんっていう人も多いし。ほなけん、それはもっと伝えていかなあかんと思います。

渋谷 浦山さんが言ったように、家族にどう伝えるかっていうのはとても重要だと思います。最初にも話しましたけど、高齢者の方って「自分は大丈夫」っていう気持ちがやっぱり強い。それを家族の人から伝えてもらうことで、配食の利用者はもっと増えてくると思うんですよね。

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ー志甫さんは最後に一言ありますか?

志甫 もう喋りつくした(笑)。

浦山 志甫さんにも、まだまだ頑張ってもらわなね。

志甫 体がめげるまで、90になってもやるわ(笑)。
でも、逆に僕がお弁当持ってきてもらわないかんかもしれんな。

渋谷 そしたら私が持っていきます。でも、味のこと言われるかもしれない(笑)。

志甫 そんなんよう言わんわ(笑)。

一同 (笑)。

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