広野小学校校長が考える、神山町ならではの教育
「『感じ、考え、行動する』という体験を、
何度もさせてあげたい」
平成29年 2月 8日
2015年4月に、広野小学校に校長先生として赴任してこられた折目泰子さん。校長先生としての仕事以外にも、教壇に立つこともあるそうで、「大変だけど、毎日が楽しい」といいます。小規模校ならでは、そして、変化している町ならではの教育とは、どういったものなのでしょうか。お話を聞かせていただきました。
地域で子どもたちを育てていく
折目さん(以下 折目) 私は鳴門市出身で、
初詣で有名な大麻比古神社の近くで生まれ育ちました。
ずっと鳴門市とか藍住町で教員をしてきて、
一昨年の4月から、広野小学校の校長として勤務させていただいています。
中山間地域の学校には、
大学を卒業した新任の時に、一度だけ勤めたことがあります。
当時で全校児童が40人くらいの学校でした。
でも、その時は新任教員ですし、
子どもたちを育てることに精一杯で終わった感じ。
神山は、同級生がいるくらいで縁もゆかりもないです。
それまでは、森林公園に来たりとか桜を見に来たりとかぐらいで、
町のことは何も分かっていませんでした(笑)。
こっちに来てから、町の動きみたいなものを、
急にどっと見聞きするようになりました。
ー外から見ていた神山と今の神山の印象の変化はありますか?
折目 外から見ていると、
自然とか食べ物とかに目が行きがちだと思うんですよ。
でも、実際ここへ来てみると、私の仕事柄もあるでしょうけど、
非常に子どもに手厚い町だなっていうのはつくづく感じます。
例えば、教育機器であるとかですね。
そういうのは、とても充実してると思います。
各教室に大きなテレビと手元を映すカメラがあるんですよ。
これは、他の学校だと全校に2台とか3台くらしか入ってないんです。
例えば小学校1年生に対して、「ここに〝あ〟って書くんよ」って言っても、
〝ここ〟が分からないんですよ。
でも、そのテレビとカメラがあれば、〝ここ〟の場所が、児童にもすぐ分かるんですよね。
単純なことですけど、今、そうやって教育機器やICTを活用することが、
学力向上の大きな柱になってるんです。
神山はすごく整備されてるから、
やる気のある先生にとっては、とても面白い環境だと思います。
もうひとつは、地域との結びつきがとても強いことです。
学習発表会や運動会とかの行事に、
保護者以外の方が沢山参加してくださるんです。
運動会は、打ち合わせ段階から多くの人が協力してくれるんですよ。
長寿会・芸能振興会・消防団、皆で運営委員会を作って。
で、各団体さんが色々な種目を担当してくださるんです。
逆に私も、今日みたいに学校にお客さまが来る時は、
必ず校区内のお菓子屋さんに寄って、お菓子を買ってくるんです。
そしたら運動会の時に、
「いつも買ってくれよるけん、お慶び持ってきたわ」って言ってくれたりとかね(笑)。
勿論、私がお菓子を買ってるから来てくれてるのではなくて、
地域の子どもたちの成長を見守ってくれてるんですけどね(笑)。
でも、やっぱり顔の見えるお付き合いを私たちも大事にしたいんですよ。
そういう地域との繋がりは、他の町ではなかなかないと思うんですよね。
だから、私も学校での様子を、
学校のホームページやブログで書くようにしているんです。
それを保護者の方や地域の人たちと共有することで、
学校だけでなく地域がひとつになって、
子どもたちを育てていくことができるんじゃないかと思います。
新しいことをどんどんやり続けていこう
折目 広野小学校は、児童の人数も少ないので、
大きい学校とは忙しさの質が違うと思います。
大きい学校では、問題対応や後処理的な忙しさが多いんですけど、
広野では、前向きな工夫をすることに、エネルギーを使えるというか。
そうは言っても、とても忙しいんですけどね(笑)。
先生の数も限られているので、
ひとりがいくつもの分野のことを担当しなければいけないですし。
誰かが出張したら、私も授業にいかなきゃいけないんですよ(笑)。
でも、学校という組織は〝例年通り〟が多くなりがちなんですが、
ここでは、思いついたことを色々とやってみるようにしています。
ーたとえば、どんなことでしょう?
折目 夏休みに、全校児童で学校でキャンプをしたんです。
今までは、各地区ごとに子ども会みたいなのをひらいていたんですね。
保護者の方が、4,5人くらいの子どもを連れて、
ボーリングや遊園地に行ったりみたいなことをやってくれていて。
でも、人数が少なくなってきたのもあるし、
このままでいいんかなという意見が、保護者の方からも出てきたんです。
その時に、私が「じゃあ、皆で学校でキャンプしましょう」って提案したんです。
教員にしてみたら、「また校長が何か言いはじめた」って思ったでしょうけど(笑)。
保護者の方も大勢参加してくれました。
子どもはね、お父さんやお母さんと一緒に何かをするのが楽しいんですよ。
家の人と川遊びしたり、家の人と外でバーベキューしたりとか。
子どもたちも保護者の方も、すごく喜んでくれたと思います。
もうひとつは、神領小学校と共同だったんですが、
焼山寺でお遍路さんにお接待をしたんですよ。
1,2年生を連れていって、メッセージ付きのお茶をお渡ししたんです。
※四国では、八十八ヶ所を巡礼するお遍路さんに、
お接待をする文化が古くから根付いており、神山町には第12番札所の焼山寺がある。
学校でも沢山練習したんですよ。
私たち教員がお遍路さん役になって、
「ようこそお越しくださいましたって渡すんよ」とか言うて(笑)。
実際にやったら、すごい感激してくれたお遍路さんがいらっしゃって、
電話や手紙をくれたり、文房具を送ってくれたりっていうのもありました。
私たちにとっても児童たちにとっても、本当に良い体験だったと思います。
私は、若い時から教育のテーマとして、
「感じ、考え、行動する」というものを掲げているんです。
それは、子どもたちにもよく言っています。
私たちが、「こんな力が必要だろう」と思った力だけではなく、
今の時代に合った力を子どもたちにはつけてもらいたいんです。
学力も、勿論大事なんですよ。
大事なんですけど、それだけじゃないと思うんです。
だから、子どもたちには「感じ、考え、行動する」という体験を、
卒業までに何度もさせてあげたいと思っています。
子どもは知ってる職業しか選べない
折目 今年度から保育所と一緒に行う活動も増やしました。
人口が少なくなっていっているなかで、
広野小学校もいつまで継続させていけるかっていうのは、ひとつ大きな課題です。
できるだけ、広野保育所の子たちにも広野小学校に来てもらわないといけないんですね。
広野保育所の子たちも、別の小学校に行く可能性もありますから。
7月には、広野小学校の卒業生でピアノ教室している先生に来ていただいて、
保育所の子も招待してミニコンサートをしたり、10月には秋祭りをしたり。
とにかく広野小学校って楽しそうって思ってもらえるように、色々と考えて動いてるんです。
何もしないでいると、多分、広野小学校はすーっとなくなってしまうんじゃないかな。
そうならないように色々な工夫をして、新しいことをどんどんやり続けていこうと思っています。
ー最後に、今の神山をどういうふうに見られていますか?
折目 今、町自体が大きく変化していることは、私たち教員もすごく感じていて、
どうやったら町の動きと連携した学校教育を進められるかを考えています。
そのひとつとして、広野小学校ではサテライトオフィスの社員さんに、
ドローンの特別授業をやってもらったりもしています。
子どもたちにも、新しい動きや新しい職業が神山には沢山あるっていうことを知ってもらいたいんです。
ある日ね、
元々は科学者になりたいって言っていた子が「もう役場の人になる」って言い始めたことがあって。
それって、科学者と公務員のあいだの職業をあまり知らないってことですよね。
やっぱり子どもはね、知ってる道しか、知ってる職業しか選べないんですよ。
でも、子どもたちが大人になった時には、今ある職業の大半はないんです。
だから、自分の知らない仕事が、世の中にはいっぱいあるということをね、
是非、子どもたちには感じて欲しい。
神山で働いている人たちのような、
多様な職業が世の中には沢山あるっていうことを知るだけでも、
自分が職業選択をする時の、何かのヒントになるはずですから。
そういう意味では、
今の神山は、そういうことを肌で感じることができる町になっていると思います。