【第2話】遠國悠子さん/和柑橘とおくに

遠國悠子(とおくに ゆうこ)/和柑橘とおくに
北海道出身、2020年神山町へ移住
第2話は、2021年に新規就農した遠國優さんの妻、悠子さんです。
インタビューのために訪れた自宅には、町内の空き家から引き継いだ民具や家具が、暮らしの中で大切に使われていました。神山での毎日を、自分たちらしいかたちで楽しんでいる様子が、空間からも伝わってきます。
第1話では、優さんからすだちとの出会いや農家としての思いを伺いましたが、今回は視点を変え、悠子さんに神山町での暮らしや、すだちを使った加工品づくりについてお話を聞きました。
田舎すぎなくて退屈しない、神山というまち
優さんと悠子さんの出会いは、小豆島でのオリーブ栽培でした。
移住先を探して各地を訪れていた悠子さんと、新規就農ができる場所を探していた優さんは、その後およそ1年にわたり一緒に各地を巡り、最終的に神山町へとたどり着きました。
ー当時を振り返って、神山町での援農はどうでしたか?
悠子 鬼籠野地区のすだち農家に2ヶ月通って、摘果摘葉から収穫まで関わったんですが、振り返るとすごく楽しかったなと。もう真夏なので汗だくで、髪の毛もボッサボサの状態で作業していたんですけど、すっごく気持ちが良かったんです。また、すだちのトゲが痛いよと事前に聞いていたものの、農業とか全然したことない私でも意外と大丈夫でした。
あと、仕事帰りにラーメン居酒屋の「どちらいか」に行って、二人でラーメンを食べたり、当時あったテイクアウトのお店「フードハブ・テストキッチン」で、お菓子を買って食べたりとかしたのも楽しかったですね。あと、 川にも入って遊んで、神山っていいところだなと思いました。

神山で援農していたときの様子
ー農業だけじゃなくて、神山の暮らしも満喫されたんですね。
悠子 それは本当にそうですね。 地元の方の家に遊びに行かせてもらったり、まちのイベントにも参加させてもらったりして、ここならやっていけそうだなってすごく感じました。神山は、田舎すぎないところがよかったです。
ー田舎すぎないというのは?
悠子 神山には面白い人がたくさんいるので、あんまり退屈しなさそうだなって。 実際に5年住んでいても、面白い人がまだまだたくさんいるし、さらに新しい人が入ってきている印象があります。
あとはアクセスの面でも、徳島市内まで車で40分というのは、私にとってはそんなに遠くないですね。 神山町に居てもAmazonは届くし、町内に商店もあります。地域の方にお野菜もいただいたりしたら、日常の買い物もそんなに困らないかなと感じています。

面白い人が集まる、神山での活動(悠子さんは左から2番目)
家族でつむぐ、すだち農家の暮らしのかたち
ー援農で出会ったすだちに可能性を感じ、翌年遠國さんたちは神山町に移り住みました。優さんに当時のことをお聞きしたら、「とりあえず神山に飛び込んでみようと思った」とおっしゃっていましたが、実際に家や仕事探しはどのように進んでいったのでしょうか?
悠子 移住交流支援センターが運営するお試し住宅があったのがすごく大きかったと思います。
以前、他のまちへ移住を考えたこともあったんですけど、とりあえず来てみようというのができないところが多かったんです。 「遠方からいきなり住む家を探すっていうのは難しいから、住んでみて探さないと」という話はよく聞いていました。
3ヶ月ほどお試し住宅にとりあえず住んで、家を探していた頃に「明日引っ越すんだよね」っていう知人に偶然出会って。トントン拍子に進み、今の家が見つかったので、神山の繋がりはすごいし、 お試し住宅があって住めてよかったなって思いました。

玄関にはイラストとともに、すだち・ゆず・キウイが可愛らしくディスプレイされていた
ー町内に住みながら、地域のつながりをつくり、家を見つけることができたんですね。移り住んだ頃、お仕事の方はどのように考えていたのでしょうか?
悠子 最初は私が支える形にしたかったので、神山に来てからリモートワークのお仕事を始めました。新規就農のための5年間の助成金(※2021年当時)をいただきつつ、「その間は私が支えるから、心配なく何でもいいからやっといで」と彼に伝え、途中からは自分の農業に専念してもらいました。
※経営開始資金 2025年現在の制度では最長3年間
ー実際に神山に暮らしてて、いいなと思うところはありますか?
悠子 自然環境が豊かで、季節のものがいろいろ手に入ること。
また、子育てもすごくしやすいなって思います。お散歩しながら家の近くの川に入ったり、 お隣の畑にあるイチジクやビワをもらって食べたりしながら帰るのがすごく楽しくて。 のびのびしてていいなって思います。 子どもとお散歩していると、知り合いに会わない時はないぐらい、いろんな人に声をかけてもらうのは、神山ならではです。ご近所の方に野菜をもらったり、うちは逆に柑橘を差し上げたりする関係があるのもいいなと思っています。

すだちのお菓子づくりと、すだち専門店という新たな夢に向けて
悠子さんは出産を経て、2024年からすだちタルトづくりに取り組み、道の駅やSNSでの販売を始めました。すだちタルトは、すだちのキリッとした酸味と爽やかな香りを感じつつも、タルト生地とメレンゲ、練乳の甘味で、大人も子どもも食べやすく、見た目も可愛らしいケーキです。
ーお菓子づくりを始めたきっかけを教えていただけますか?
悠子 夫がすだち農家をやってるので、すだちの美味しさを広めたいと思っていました。 ただ、地元の北海道の人たちはすだちのことを全然知らなくて、「え? どうやって使うの? 」みたいな感じで。そこで、北海道の実家に持っていけるような、2週間ほど日持ちして年中食べれる、そんなすだちのお菓子のお土産をつくりたいと思ったのがきっかけです。
夫は JA に出荷する農薬も使っているすだちと、無肥料・無農薬のすだちと半々で作ってるんですけど、無肥料・無農薬のすだちはJA に出すと、見た目が悪いという理由で、加工に回って安い価格になってしまいます。だから、こういったすだちが後回しになっているのがもったいないなと思い、活用することにしました。

見た目も可愛らしいすだちタルト
ーすだちタルトのレシピはどうやって開発したんですか?
悠子 神山には伝統的なすだちのお菓子が無いなと思って、 ネットで色々と調べたら、「キーライムパイ」っていうのに行き着きました。 アメリカのフロリダ・キーズ諸島に、酸っぱくて、芳醇な香りがするキーライムっていうのがあって、見た目も大きさもすだちに近いんです。その諸島最南端の都市には、キーライムパイの専門店がたくさんあるのを知りました。早速レシピを調べて、すだちを代わりに試作してみたら「何これ、おいしい!」ってなって。
日本人的にはパイというよりはタルトで、ほとんどの人は食べたことない味や食感だと感じてくれるようです。 すだちにぴったりのレシピでした。今回生菓子は作れたんですけど、賞味期限の長くて酸味をしっかり感じられる焼き菓子は、まだ挑戦中です。

調理場に置かれている調理器具の中には、すだちしぼり器も
ー楽しみにしてます!他にやってみたいことはありますか?
悠子 すだち農家の嫁としてできることはないかなって考えているのは、小さなすだちの専門店です。ゆずの産地には、ゆずの専門店のような直売所があるように、神山に来た人がすだちだらけのお店に入れたら、お土産選び放題だし、楽しいと思うんですよね。 いつ実現できるか分かりませんが、それが今の夢です。
ー新規就農ですだち農家を検討されている方へメッセージをお願いします。
悠子 私たちが来た理由になるのですが、初期投資があまりかからないのはすごくメリットだと思うし、もうすでにすだちの木が植えられているので、もしそういった畑を借り受けることができれば、1年目から収入を得られる可能性が高いです。 あと、冷蔵すだちは単価が高いので、ちゃんと生活を立てていける可能性がある作物だと思います。
そういった魅力や可能性を感じて、私たちはすだちにかけてみようと思いました。 そして先ほど言ったように、神山は田舎すぎず都会すぎず、面白いことをやろうとしてる人もたくさんいます。 田舎暮らしだけど、退屈しないというか、田舎で寂しいという感覚にならない場所なので、おすすめですよと言いたいです。

遠國悠子さんおすすめ!すだちの食べかた
生のすだちをそのまま刺身や肉料理にかけるのはもちろんおすすめですが、ひと手間かけるのであれば「すだちシロップの酵素ドリンク」をぜひ。
すだちを半分に切り、瓶の中に氷砂糖と交互に入れます。たまに瓶を振りながら、1ヶ月ほど漬け込めば完成。果実のエキスや香り、すだち本来の酵素をやさしく引き出したシロップです。
すだちの爽やかさと深みのある大人の風味が、援農に来られる方々にも大人気。炭酸や水で割って、暑い夏にぴったりのドリンクです!
