神山町 kamiyama-cho

神山を案内

神山を案内

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神社の森、身近な神域:大粟山

平成27年12月25日

今回の案内人

案内人

案内人:後藤正和さん(現在4期目を務める神山町長)

神山町の「神領」という地区で生まれ育った後藤さんは、町議会議員を経て13年前から町長に。公私ともに神山を知り尽くす、山椒が苦手な65歳・魚座。夢の一つは「昔のように、犬を放し飼いにできたらいいね!」(獣害対策)。

徳島市から国道438号線を西へ向かうと、鬼籠野の先で峠を越えて、神領と呼ばれる、ゆるやかな谷あいに降りてゆきます。
左手にぽこんとした小山が見えて、大きな鳥居が目に入る。そこは、上一宮大粟神社の石段のふもと。山の名前は、「大粟山(おおあわやま)」といいます。

後藤 この山のふもとで産まれたんよ。小さな頃から山の中で転げ回って、遊んだ遊んだ。
「山には〝みょん〟という妖怪がおる」と大人から聞かされとった。まあ、早く帰って来いということなんやけど、薄暗くなったころ鳥や動物の音がガサッとすると、それまで夢中で遊んでいたのにね、みんな堰を切ったように「わーっ!」と山から駈け降りて逃げ帰った。

お!ほら見てみ。太陽が出てきた。われわれは、歓迎されているな。(笑)

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こんな小さな山でも偉い神様が鎮座しておる。「子どもはあまり奥へ行っちゃいかんよ」、という意味合いもあったのかもな。

神山ではアーティストインレジデンスという滞在制作プログラムがつづいていて、毎年国内外から3名(3組)のアーティストが訪れ、2ヶ月少々の滞在制作を行い最後に展覧会をひらきます。
この山は、そのアーティストたちの制作・展示の空間の一つ。過去の作品を見て回るアートウォークという小径もあるのですが、後藤さんの案内で分け入ってゆく大粟山は、また別の表情を見せてきます。

後藤 ここは山のいちばん上。小さな頃からよく来てた。

(取材者 奥まで来ちゃってるじゃないですか⋯)

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後藤 天辺(てんぺん)丸(まる)といってな。今でも毎年、正月には上がって来る。

NPOグリーンバレーさんたちが、少し下のところで西側の斜面の木を伐採して、上流につづく神山の景色がよく見えるようにしてくれとるけど、昔この辺は全く手入れされておらんかったから、下層植生が豊かでいろんな植物が生えておって、子どもながらに面白かった。

いまはアートもあって、ちゃんときれいにされとるし、歩きやすいけど、自分からしたらちょっと手入れしすぎ。(笑)

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後藤 この眺めは、天辺丸で木に登らんと、よく見えなかったんよ。
川の形が見えて、遠くの山々も見通せて。

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はるか昔には遠い山それぞれに烽火台があり、敵が攻めてくると火をおこして知らせていたらしい、と後藤さん。

後藤 奥の山は、左から丹生山・高根山・東宮山(尖っている山)・焼山寺山。

とくに雪の降った日は、遠くまで全部真っ白でな。午前中は東宮山が輝いておるし。秋の夕焼けも抜群にきれいで。それを見たくて、木の上までよく登ったわ。

さっきの天辺丸は、大宜都比売命(オオゲツヒメノミコト)が降りて来た場所でね。
高天原から追い出されたスサノオが、お腹を空かせて食物を求めたところ、オオゲツヒメが鼻や口や耳から食べ物を取り出して。驚いたスサノオは彼女を斬り殺してしまうのだけど、その屍からまた蚕や稲や粟やいろいろな食物が生まれた、というくだりがある。
古事記の中でもめずらしいくだりなんよね。ヒューマニティというか。自分をもって相手をもてなすというか。この地域全体にある、お遍路の「お接待」の心ともつながるものがあるんでない? というのは私の自説なんやけど。(笑)

いずれにしても、ここは神話の舞台だったわけです。
神社の名前もね、一宮じゃなくて「上一宮」とわざわざ「上」がついとる。なにかあるんよね。

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後藤 爺さんから習ったので、この山にある植物はまずわかる。ウラジロ、ヒメサカキ、ムラサキシキブ、ソヨゴ、冬イチゴ、サルトリイバラ。

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後藤 これはワカバ。刈られてもまた生えてくる。お正月にはしめ縄や鏡餅の飾り付けに使うんよ。

ほかの山々も、上の方まで杉が植わっておるでしょ。自分も小さな頃、手伝いで植えに行ったことがある。大粟山は全部神社の土地ではなくいろんな人が持っておって、まわりの山と同じくほとんどスギで植林されておる。
けど、もともとの潜在自然植生は落葉照葉樹だから、ワカバと同じくシイとかクスノキが生えておったと思う。

そんな照葉樹の森が、本来の神域ではないかなと思っています。

遊び回っていた小さな頃はもう杉林やったけど、昔の大粟山はもっとうっそうとした照葉樹林におおわれていて、でべそというか、山自体がちょっと円墳のような感じだったと思うんよ。

そんな、神社の森としての姿をつくってゆけたらなあ。

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後藤 爺さん婆さんから聞いて知っとるんやけど、大鳥居から境内に登ってゆく階段ね。素晴らしいでしょ。

大粟山は水のある山だから、階段の石にはきれいに苔がはんでね。とくに梅雨時はすごくいいんですよ。

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後藤 神山の好きな場所はいくつかあって、季節によってまた変わってくるんやけど、やっぱりここやなあ。

  • 聞き手

    聞き手:藤原牧子(神山町 総務課)、西村佳哲(神山つなぐ公社)さん 

  • 撮影

    撮影:植田彰弘さん 里山みらい(地域おこし協力隊)

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