【第3話】國本量平さん/クニモトすだち農園


くにもとさん写真

國本量平クニモトすだち農園
広島県出身、2012年神山町へ移住
 

第3話は、2年間のすだち研修を経て、2022年に就農した國本量平さんです。
この日訪れたのは、研修中に地元の方から使われていなかったすだち畑を紹介してもらい、数年かけて少しずつ手入れをされた畑で、とても気持ちの良い空間でした。
「今年の収穫シーズンは、自宅にある製麺機ですだちそばをつくって、まかないとしてみんなで食べるのが楽しみ」と、すだちをつくるところから使って味わうところまでを大切にしている姿が印象的です。
そんな國本さんに、すだち農家になった経緯や今の働き方、これからのことなどお話をお聞きしました。



飲食業からすだち農家へのチャレンジ

地元広島や神山町で飲食に関わる仕事をしてきた國本さんは、すだち農家になった今でも、時々イベントで「かばちや」という広島焼きのお店をしている姿を見かけます。神山町で暮らす中で、どのように農家という生き方に辿り着いていったのでしょうか?

國本 神山町に来たのは13年前。ユニークな試みをしている「神山塾※」という職業訓練がきっかけです。その後、6年半くらい「カフェオニヴァ※」というフレンチレストランで働いて、 調理や接客の仕事をしていました。

※神山塾:神山町のまちを舞台に「自分のものさしで生きる」ことを目指す職業訓練。2010年に始まり、全国から述べ200名以上の社会人が参加している。
※カフェオニヴァ:元造り酒屋を改築し、オーガニックワインと南仏家庭料理が楽しめるカフェ&ビストロ。2023年からは一棟貸しのB&Bにリニューアルした。

ー すでに神山町で暮らしていた國本さんが、すだち農家をやってみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

國本 働いていたレストランでも、食材としてすだちを取り入れていて、すだちの収穫が忙しい時には、数日間手伝いに行かせてもらっていました。2018年6月頃にレストランを辞めることになったときに、知り合いのすだち農家さんから「手伝いに来てくれ」って言われて。その年は摘果摘葉っていう実を仕上げていく作業から、収穫や発送、畑の整備など一連の流れに初めて関わりました。

その後ひと段落して、神山を出ようか、それともとどまろうかと考えていた時に、ある日「自分ですだちをやってみたら面白いかも」と思ったんです。そうと思った瞬間に、いろいろと想像が膨らみ始めました。飲食でやってきた経験や築いてきたつながり、県外から移住してきた強みなど、いろんなことが活かせそうだと感じて、やってみようと決めました。

くにもとさん収穫風景


ーすだちのどんなところに面白さを感じたのでしょうか?

國本 徳島県が日本一の生産量を誇る、とても希少な生果で、いろんな料理との相性がいいところです。県外出身者からすると高級品という印象があったのですが、神山町では日常の食卓にすだちがあって、 とてもカジュアルに使われていて。 そういう中で、新たなおいしさを発見することがあって、もっと広まればいいと思いました。


ー 國本さんの場合、すだちをつくるところからその先まで見れるのは強みですね。

國本  これまで飲食や営業職をやってきた経験から、自分の農園から直接お店に卸しています。その先のお店の人が使って喜んでるイメージが自分の中に欲しくて。
市場に出しちゃうと、結局すだちを使う人は、生産者がどういう人かっていうのはいまいち分からなくなってしまいます。顔の見える生産者って、スーパーとかで「私がつくりました」と書かれた生産者の写真があるように、僕にとっては顔の見えるお客さんの存在が、すだちをつくるときのモチベーションになります。なので、個人的に直接「僕のすだちを使ってください」と営業したりもしています。 

 

季節や気候に合わせて働く すだち農家の働き方 

すだち農家をやっていて良かったと思う瞬間を聞くと、「9月の半ばも過ぎて彼岸花の咲き始めるあたりになると、すごく気持ちいいんですよ。夏から秋へ切り替わる瞬間、畑で収穫できるっていうのは、なんかやって良かったなと思うときがありますね。」とにこやかに話す國本さん。自然の中で営みをつくる農家の働き方についてもお話を聞きます。

くにもとさん彼岸花


國本 農家は自然に従う仕事なので、雨が降ったら休み、晴れの日は働きます。最近は夏がすごく暑いので、日中は作業ができなくなっちゃって、朝早く起きて収穫しています。季節や気候に合わせて働くというのは、これまでやってきた仕事とは一番大きな違いですね。
あと、収穫の時期はべったり畑にいなきゃいけないことはあるけれど、段取り次第である程度自分で調節はできます。


ー農閑期はどういったことをされていますか?

國本 11月から2月ぐらいまでは比較的やることは少ないのですが、その間は料理の仕事をちょっとしたり、日曜大工をしたり。すだちを持って県外に出て営業に出たりとか、そういうことをしていますね。農閑期が比較的自由なのは、この仕事のいいところです。

ー神山ですだち農家を始めるにあたって、大変なことはありましたか?

國本 新規就農するにあたって、畑の確保がすごく難しいところ。 実は、今も畑のことで落ち着き切れていないんですけれども…。畑の確保について結構考えて、いろいろ動き回らないといけない時期があって大変でした。


ーすだち農家として悩んだ時に相談できる関係はありますか?

國本 今住んでいる集落のおじちゃんたちにすだちについて聞くことが結構多いですね。ベテランで長いことされているすだち農家が多いので、 近い人に聞くのが一番だなと思って、集落の皆さんにお世話になっています。

 

需要が高まる、すだち農家のこれから

神山町は12番札所の焼山寺があり、国内外から多くのお遍路さんが訪れるまちでもあります。神山暮らし13年目の國本さんに、このまちの地域性を聞くと「神山町の人たちは、とても親切。昔からお遍路さんが行き来するまちなので、よそ者に対しても優しくて、寛容だと思います。すだち農家になってからは、応援してもらうことも増えました」と言います。神山町におけるすだち農家の現状について、國本さんはどのように感じているのでしょうか?

國本 周りには80歳を超えている方など、かなり高齢の方もいます。これから1人が辞めると言ったら、一気に農家さんの数が減っていきそうで。自分が惚れ込んだ生果だし、旬の味覚っていうのは失われてほしくないなという思いがあります。

ただ、すだちの生産量が減っているにも関わらず、今需要は結構高まっている現象が起きていて。すだちはすごく必要とされていると感じているので、新規就農の方はチャンスだと思います。

くにもとさん農園


ー新しくすだち農家を始める方は、どんな方が向いていると思いますか?

國本 先ほども言ったように、繁忙期と農閑期があるのでメリハリをつけて仕事に取り組みたい人にはおすすめです。
あと、兼業や副業など他に仕事を持っていて、農業にも興味があるっていう人には結構向いているんじゃないかと思います。新規就農の場合、最初は稼ぎがなかなか上がらないんですけど、例えば半年間の農閑期で、別の仕事で年間の収入を得ながら、じわじわ5,6年かけてすだちの収益も上げていくことができたらいいと思います。


ー國本さんは、2022年に有機JAS認証を取得し、有機すだちの栽培に取り組まれています。有機すだちを栽培している理由を教えていただけますか?

國本 すだちは香酸柑橘類(果汁の酸味や果皮の香りを楽しむ柑橘類)で、慣行農法でも有機農法でも、味はそこまで変わらないんですよ。 それで新規参入の僕は、就農するときから安心安全っていうのを売りにしたいなというのを思っていて。いろんな需要がある中で、有機すだちを探している方も結構多いので、そういう方のニーズに応えられるものを作りたいなと思っています。

くにもとさんすだち


ー他にもこれからやってみたいことはありますか?

國本 これまでの飲食業のスキルなどを掛け合わせて、神山に滞在しながら、すだちの収穫体験をして楽しんでもらうことをうちの農園でできたらいいなと思っています。


<國本さんおすすめ!すだちの食べかた>

いろいろあるんですけど、ちょっと変わったやつを(笑)スライスしたすだちに、 片面に砂糖、裏返してもう片面に珈琲の粉を乗せます。ハードリカーに結構相性がいいんです。これはスイーツとしても結構面白いですね。 大人でコーヒー好きな方は結構ハマると思います。昔旅するロシア人に教えてもらったものはレモンだったんですけど、すだちでもいけるはずと思って作ってみたら、めちゃくちゃ美味しかったので、おすすめです。