「すだち農家という暮らし方」インタビューvol.1
「すだち農家という暮らし方」インタビューVol.1
【まえがき】中西富士男さん/神山すだちのはじまりと今

中西富士男/JA徳島県神山地区すだち振興部会会長、NPO法人里山みらい理事
神山町出身
本連載「すだち農家の暮らしかた」のはじまりとして、神山町のなかでもすだち農家が多く
集まる鬼籠野(おろの)地区を訪ねました。お話を伺ったのは、長年にわたりすだちに関わ
り続けてきた中西富士男さんです。
中西さんがすだちの栽培を始めたのは、当時勤めていた農協の仕事がきっかけでした。職員
として農家の方々とすだちについて話ができるようになりたい、そんな思いから栽培を始め
たと言います。定年退職後の現在もすだち農家を続けながら、すだちの普及と農家のサポー
トに取り組む中西さんに、神山すだちのはじまりと今についてお話を聞きました。
すだちをやらんか ー神山すだちのはじまり
ー ここ鬼籠野地区には、樹齢200年以上と推定されるすだちの古木があります。古くから神
山の旧家には、すだちの木が点々と植えられていたと聞きました。
中西 自給自足の時代、酢みかん(果汁や果皮を食用として料理に添えたり、薬味や香料と
して利用したりする香酸柑橘類)として作っていたのがすだち。当時の醸造酢は高価だった
し、そんなになかったことから、家で「酢のもの」をつくるとき、すだちを使って調理をし
ていた。

橋本純一さんが所有する畑には樹齢約200年とされる、すだちの古木が植っている
ー 神山の人々にとっては、昔から身近な食べ物だったすだちですが、本格的に栽培が始まったきっかけはなんだったのでしょう?
中西 神山町の鬼籠野という土地で、昭和30年に6名の農家が果樹園芸同士会を立ち上げて、「すだちをやらんか(やらないか)」と言ったのがはじまり。
当時、神山町の他地区は田んぼしながら、山の木を管理していたら生活できていた状態だった。ただ、鬼籠野っていうところは、見ての通り、山が低くて、材木もそんなにない。鬼籠野では盛んだった原木しいたけはあったけど、原木の限りもあるし、何かもう1つ(営農基盤となる作物が)欲しいということで、すだち栽培を進める同志会が立ち上がった。

鬼籠野一ノ坂周辺のすだち畑の様子
ー なぜ、すだちという果樹に特化したのでしょうか?
中西 「神山町は隣の佐那河内村のように温州みかんを作っても、寒暖差が激しくて、雨量が多いから、おいしい温州みかんはできん。
ほれやったら、すだちどうで(それだったら、すだちはどうか)」という話があって。
すだちの木を増やすためには、接ぎ木で増やさないといけないということで、苗木屋さんに頼んだ。
神山1号、2号、3号、4号と4種類の穂木(※接木を行う際に、台木に接合する上部となる枝)を準備してもらい、昭和32年、33年からとにかく量を増やしていった。
そして今年(2025年)、すだち栽培が始まってちょうど70年になる。

JA徳島県 神山鬼籠野選果場前にはすだち栽培50周年記念碑が建てられている。石碑には、栽培技術・貯蔵技術・加工技術を確立し、
すだちを徳島県の特産品に育てた功績が知事表彰されたことも記されている。
同じ作業しても出来が全然違う ーすだち農家の働きかた
神山町から始まったすだちの本格的な生産やPRは徳島県全域に広がり、今では1年を通して、すだちの出荷がされるようになりました。
中西 すだちの市場は、3月10日を起点に、まず県南で主流となっている「ハウスすだち」から始まる。神山町では、7月中旬頃からビニールだけをかけた「無加温ハウスすだち」からスタートして、8月のお盆頃からは「露地すだち」に。さらに、10月から翌年3月10日までは、冷蔵庫で低温貯蔵している「冷蔵すだち」を出荷している。徳島県では、1年中すだちを供給できるような体制を組んでいる。

神山町にいる専業農家の多くは、単価の高い「冷蔵すだち」も組み合わせながら生計を立てている。
ーすだち農家の1年のスケジュールを教えてください。
中西 ゴールデンウィークを過ぎた頃から、すだちの花が咲くので、それから消毒をやったり、肥料をやったり。そして、7月からお盆前ぐらいまでは、秀品率(収穫量に占める秀品の割合)アップのために、摘果摘葉という作業(不要な果実や葉を間引く作業)がある。お盆頃から収穫が始まり、9月いっぱいで収穫終了。
木も大分くたびれているだろうから、大体10月の末から11月初めにお礼肥(収穫後の肥料)をして、木が休む冬場には剪定や土づくりもやる。
そういった1年の流れで動いている。

ー 今のすだちの市場は、どのような状況でしょうか。
中西 ここ10年、すだちの単価は本当にいい。
今年のすだちの原料(搾汁加工用の安価なすだち)でも1キロ140円くらい(2025年9月時点)と高い。
すだち農家の戸数も700戸あったときは、生産が多すぎて、農家には加工用すだちの出荷制限したり、売れなくて一部廃棄したり、
そんな時代もあった。今はいろいろ宣伝もされてきて、使ってくれるようになった。そうしたら、今度は足りなくなって。
どうしても高いとき、安いときというのはすごくある。
過去22年分のすだち出荷量と平均単価(露地栽培・JA取扱分)

ーさらにここ数年、猛暑が続き、環境もかなり変わってきていますよね。
中西 変わったなあ。ここ3年は異常だね。
暑いのに加えて、百姓は毎年天候にはかなわない。 同じ作業しても出来が全然違う。
今年は気温が高くて生理落果(樹木が自らの生長調節のために自然と果実を落とす現象)がひどくて。そうしたら、その後に雨がドカッと降ってくるようになったから、今年は実太りがいい。 もう大玉でパンパン。一方、去年はたくさんなりすぎたから、実が大きくならなかった。
年によって、もう全然違う。 だから、本当に難しいな。

土台をこしらえておこうかと ーすだち農家のこれから
すだち農家の戸数は現在約450戸となっており、ピーク時に比べて約3分の2の数になっています。神山町は、すだち生産量日本一を長年維持していますが、すだち農家の高齢化や後継者不足の問題を抱えています。
ー すだちの認知は上がってきているけれど、提供できる量が少なくなるとともに、 ひとりの農家にかかる負荷が大きくなってきているようにも感じます。
中西 神山町の冷蔵すだちというのは、8月25日から9月10日までの収穫。 これまでに採り込んだ実でないと、2月・3月までは絶対に(冷蔵が)もたないからね。 せっかく作っても、その間に収穫してしまわないと。 だけど今、収穫の手伝いに来てもらう人も、だんだん減ってしまっている。
我々もつくるためのノウハウはいろいろあるんだけど、体がちょっと動かなくなってきている。手間さえあれば、どんどん量は増やせるんだけどね。 やっぱり、働き手という手間も養成していかないといけない。

ー5年後や10年後、どういう風になっていくといいと思いますか。
中西 正直なところ、生産者が減っていくのは、現実的にもう仕方ないと思って。
それでも、先ほど話した同志会の橋本純一さん。 あの人は、85歳になっても、新植ですだちを植えていた。 「橋本さん、年足らんなぁ(育つまでに時間が足りないなぁ)」と言ったところ、橋本さんは「植えといたら誰かが作ってくれるから」と。これが現実になって、今では若い世代の人へ畑を無償で提供して、すだちを作ってもらっている。ああいう素晴らしい人はいないなと思ってね。
我々も、今年この土地にすだちの苗木を植えたんだけど、多分年が足りないだろうと思う。すだちって新植しても、5〜6年はほとんど収穫できないんだけど、その後10年くらいは、毎年10キロが20キロ、20キロが40キロというように、倍に収量が増えていく。
だから、若い子がやってみようかというような気になったときに、土台をこしらえておこうかと。 空いている土地にどんどん植えといたら、すだちは増えていくなと思っている。

中西さんおすすめ!すだちの食べかた
すだちは、自分にとって身近にあるもの。小さいときから、キュウリの酢のものとか、大根のなますとかにすだちを使っていた。おすすめは、冷奴。使いかけたらもうくせになって、すだちがないと寂しい。だから、うちの家のようにすだち農家でも買ってきて、1年中、食卓にはすだちが欠かさずにあるね。
醤油をかけなくても、すだちをかけたら、調味料として十分使える。食欲がない時やしんどい時に味変する感じで、すだちの酸味を楽しんでもらえたら。

・さらに詳しく神山すだちの歴史を知りたい方は、こちらの動画も合わせてご覧ください。
神山町すだち栽培60周年記念動画 「神山すだち」 制作:えんがわオフィス
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