町内出身パティシエが考える、 これからの町の課題と地元住民の関わり方
「上手いこと交わりながら、共存していけたら」
平成30年 5月11日
森西由美さんは広野のご出身。パティシエとして活動しながら、道の駅近くの「粟カフェ」の共同経営もされている方です。そんな森西さんですが、元々は、町外を拠点にお仕事をしていました。神山に拠点を戻すことになった現在に至るまでの経緯、そして町の変化に対するご自身の考えを、聞かせていただきました。
神山で埋もれたまま、人生が終わるんは嫌やな
森西さん(以下 森西) 生まれは広野です。徳島市内に近い地域で生まれ育って、結婚してから神領に来ました。それからは神山の農協に勤めに行ったり、町内のスーパーで働いたり。商工会から表彰もしていただいたんですよ(笑)。
その当時の神山は、移住者の人もそこまで多くなかったですし、今みたいにサテライトオフィスがあるわけでもなかったので、もう少し町が発展していけば良いなあ、とは思っていました。
ただ私自身は、神山で埋もれたまま人生が終わるんは嫌やな、っていう気持ちがあったんです。神山以外で暮らしたり、働いたりしたこともなかったので。
「もっと外の世界を見てみたい! 何か新しいことをしてみたい!」と常々思っていました。けど、その勇気もなくズルズルと(笑)。そんな時に、友人が徳島市内にコミュニティスタジオを作ったんですよね。「そこで講師をしてみん?」って誘ってもらったのが、ひとつ転機になりました。
ースタジオでの講師?
森西 カルチャースクールのようなものです。10年くらい前から、趣味でお菓子づくりをしていたので、それで誘ってくれたんです。でも、最初は講師として講座を持つというよりかは、お客さんとワイワイ楽しくやれたらというゆるい感じでした(笑)。
それから、スイーツの宅配をするようになったりと色々しているうちに、徳島県菓子工業組合主催の「スイーツグランプリ」に出ることになったんです。私が出たのは2015年の大会だったんですけど、県内の有名なお菓子屋さんやケーキ屋さんが出ているなかで、3位に選んでいただいたので、それはとても嬉しかったですよね。
今は趣味が仕事になっていて、ものすごく楽しいです。お店に所属するわけでもなくひとりで作っているので、自由な発想で自分好みの味で作りたいものができるし。どこかの店で働いとったら、その店のやり方に染まらんとあかんでしょ(笑)。
〝やっぱり神山なんや〟
森西 スイーツグランプリで3位を取った後、じゃあ次は店でも始めようか、っていう気持ちが芽生えてきました。イベントとかにはちょこちょこ出店してたんですけど、自分のお店を構えるまでには至っていなかったので。その時に、どうせ店出すなら神山でやろうかな、と思ったんです。
ーそこには何か理由が?
森西 やっぱり地元やし、ケーキ屋さんもないし、最近神山賑わってるし、それに便乗しようかな、みたいな所もあって(笑)。勿論、市内でやる選択肢もあったし、なんだったらそっちの方がお客さんも沢山来てくれたとは思うんですよ。それでも、神山に決めました。出たくて出たくてしょうがなかった場所なんですけどね(笑)。知っとる人もおるし、やっぱり落ち着くんでしょうね。神山への恩返しっていうんもなんかちゃうけど、〝やっぱり神山なんや〟って思ったんですよね。
ただ、色々と土地を探したりしたんですけど、あまり良い場所がなくて。で、場所探しの為に町内を走り回っとる時に、どんなカフェがあるか見とこうとも思って、ここ(粟カフェ)にも来てたんですよ。その時に、粟カフェにスイーツがないことに気が付いたんです。それで、竜二さん(粟カフェオーナー)にケーキを置かせてもらえんか頼んでみたら、快く受け入れてくれたんで。
最初はケーキ販売の委託だけだったんですけど、人手が足らんけん手伝ってって言うんで手伝い始め、今は粟カフェの共同経営までさせてもらってます。「なんやかんや口出しして良いから」って竜二さんには言ってもらってるんですけど(笑)。でも、粟カフェのような、下がカフェで上がギャラリーになってるような店を私もしたかったんで、結構理想が叶ってるんですよね。
ー「神山に埋もれたくない」と仰っていた時との、心境の変化はありますか?
森西 そうですね。今は神山でおるんも、これはこれで良いんかなって。
神山には県外から来た人もおれば、外国の人もおるし。カフェだと色んな人たちに出会えるじゃないですか。そういう人たちと話ができるのは、本当に楽しいんですよね。基本、馴れ馴れしいんで(笑)。なので、「神山に埋もれたくない」っていう感覚は、もうないですね。
見どころを増やしていかないと
ー今の神山をどう見られていますか?
森西 グリーンバレーさんの活動とかによって、移住者が増えてきとるっていう実感はありますね。ただ地元の人の中には、今の町の変化をよく理解してない人もいっぱいおると思います。地元の人って、移住者におもいっきり関わっとる人と全然関わってない人のどっちかなんですよ。
移住者のことをどうでもええとは思ってないだろうけど、まあ見て見ぬふりをしよるというか。そういう人たちからしたら、移住者の人らが何をしよんか、よく分かってないんだと思うんです。それって、「こういうことやってます」っていう移住者側からの発信が、まだまだ足りてないってことちゃうんかな。
あと、今はカフェとか飲食店が増えすぎでしょ。でも、神山の見どころっていうんはそんなに増えてない。桜の時期は、観光客の人が沢山来てくれるけど、他の時期にもお客さんが来てくれる何かを作っていかんと。
ー例えばどういうものでしょう?
森西 提案したら無理って言われるだろうけど、もうちょっと道の駅を充実させるとかね。あとは、神山って襖絵が有名なんですけど、それを常時展示するような場所を作るとか。そういうんが増えていけば。勿論、難しいんは分かるんですけど。
でも、これだけ飲食店が増えたら、全員共倒れしていく可能性もありますよね。元々ある地元のお店が潰れないように、ちゃんと考えていかないと駄目かな、と思うんよね。
どうせ神山におるんやけん
森西 今の神山の活性化の流れは、良い面もいっぱいあると思います。でも、これが一種のブームだけで終わってしまったら、町民からしたら、「今までのは一体何だったん?」ってなりますよね。ほなけん、これからも町民がワクワクできるように、次々と色んなことを起こしていかなあかんのちゃうかな。
静かな町のままがいいっていう人もおるかもしれんけど、過疎化が進んでいっきょるんやけん、もうちょっと良くなっていけばね。色々とお金の面も含め、問題はあるんでしょうし、言うほど簡単なことではないっていうんも分かってますけど、上手いことまわるような仕組みを作っていってもらいたいですよね。
あと、もっと手伝えることがあれば良いな、とも思ってます。どうせ神山におるんやけんね。できることはそんなにないですけど、口は出せますし。私みたいに意見を言える人はいっぱいおるんで、一部の人たちだけで色々決めていくんじゃなくて、もっと広く意見を聞いていって欲しいなって思います。
それで、地元の人と移住者が上手く関わっていけるようにね。地元の人らが移住者を見て、「あの人らは何しよん?」ってなるんじゃなくて、一緒に楽しめるように。もうちょっと移住者の側から発信してもらって、お互いが上手いこと交わりながら共存していけたら、地元の人も移住者も一緒になって、皆が力を合わせていけると思うんです。